すれ違う気持ち
見合いは十一月の第一日曜。それが明日という日に賢治から電話があった。
久しぶりだったが、思いは複雑だ。
「話があるんだ。明日会えないかな」
屈託ない話し方に、恵津子は和みかけたが、「私、明日、お見合いなの」と答えていた。
なぜそんなふうに答えたのだろうか。
口にしてから、もう終わりなのかもしれないと思っていた。
電話の向こうで、「えっ・・・」と一言息をのむのが聞こえた。
その後によく聞き取れない言葉があった。
あなたも結婚するんでしょう、と言いたい気持ちを抑えて、次の言葉を待った。
そこに、母から声が飛んできた。
「明日の着物、早く決めなさい」
その声が聞こえたのかどうか、賢治は「そうか、それじゃ」と言葉を濁すようにして電話を切った。
賢治が会社を辞めたのは、それから一ヶ月後のことだった。
賢治が会社を辞めるということを恵津子は知らなかった。辞めたということを知らされただけだ。
「佐竹さんだけどさ、辞めたでしょう、会社。お父様が倒れて。急遽長野の実家に帰ってしまったらしいわ。それほど大きくないけど、精密部品作ってる会社で、うちの下請けもやってるみたい」
「でも、社長さんになるってことか。結婚はどうなの?私、もらってくれないかな」
「無理無理・・・・」
噂話の更衣室。
駅に向かう途中で、叔母に対する返事を決めていた。
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