〜望みの代償は〜 狡猾

H宝堂会議室。総務部の働きかけにより、そこには各部署の代表が集まっていた。

「会長のご葬儀についてなのですが...。どなたか、ご意見がありましたらお願いいたします。」司会は言うも、誰も声を上げない。皆、度重なる事件、マスコミ対応で疲弊していた。会議室の扉はノックされ、その扉は原田の秘書によって開かれた。その場にいた全員が驚きの表情を浮かべた。入り口から入った原田は、騒めく社員達に目もくれず、奥の自分の席の前に来る。原田は姿勢を正し、社員達にお辞儀をした。秘書がマイクを手渡す。原田は受け取り、話出した。

「皆、よく頑張ってくれた。此度の私と瑞原舞夢の枕営業疑惑は、まもなく晴れる。皆に多大な迷惑をかけてしまった事、この場を借りて謝罪したい。」原田は全員に頭を下げる。秘書は会議室のTVをつけた。そこにはワイドショーが流れていた。


司会が挨拶をし、H宝堂社長&瑞原舞夢、枕営業疑惑はウソだった!と見出しが出ている。

「私共のTV局にS区内のホテルの防犯カメラの映像の提供がありました。まずはそちらをご覧下さい。」司会が言うと、防犯カメラの映像が映し出される。そこにはホテルの廊下を歩く原田がしゃがみ込み、そこに瑞原舞夢が駆けつけた所を、カメラのフラッシュが焚かれた映像が映っていた。

「私共は更に、この映像を提供して下さった方に話を伺う事が出来ました。そちらもご覧下さい。」映像は切り替わり、モザイクのかかった人物がインタビューに答える。

「何故この映像を私共に提供して下さったんですか?」インタビュアーは、モザイクのかかった人物に聞く。

「原田さんは凄く紳士な方で、瑞原さんも真面目な方だと思っています。映像を見てもわかる様に、少しフラついてます。具合が悪いのだと思います。なのに、パパラッチに撮られ、有りもしない記事をでっちあげられて。」モザイクの人物は答える。

「何故、でっちあげられたと?」インタビュアーは聞く。

「このホテルをよく利用していた人物は他にいるんです。大方その人達に濡れ衣を着せられたとしか言いようがない。」モザイクの人物は答える。

「あなたは何故そこまで知っているのですか?ホテルの関係者ですか?」インタビュアーは聞く。

「いいえ。今や、どこにいてもネットが繋がる時代。イケない事なんでしょうけど、ホテルのPCにアクセスさせて頂いたんです。原田さんと瑞原さんの汚名を晴らす為にね。」モザイクは言う。

「何故、今になって私共にお知らせ下さったのですか?」インタビュアーは聞く。

「PCにアクセスしてわかった事ですが、このホテルをよく利用していた2人が、2人共お亡くなりになったからです。天罰が降ったとしか思えません。ちなみに、原田さんと瑞原さんの利用履歴は一切ありませんでした。」モザイクは言う。

「その2人とは、まさか、H宝堂の会長と〝sai〟のメグ⁈」インタビュアーは聞く。

「ご想像にお任せします。ですが、これだけは言いたい。私が今回こうして話さなければ、原田さんや瑞原さんは一生汚名を被ったままになってしまう。そんな事が許されていい訳がない。真相は皆が知るべきだと思ったので、提供させて頂きました。」モザイクは言う。

「今回の事で、私は警察に追われる身となるかも知れないので、ここいらで失礼します。後程、濡れ衣を着せたと思われる2人の映像をこちらに送らせて頂きます。」そう言ってモザイクは足早にその場を後にした。


「この後にこの人物から送られてきた映像がこちら。」司会は言う。そこにはホテルの一室に入って行く、橘とメグの姿が映し出されていた。


会議室内はどよめいた。

「これで私の身の潔白は証明出来るだろうか?」原田は全員に問いかける。どこからともなく、パチパチと拍手がまばらに湧き、やがて大きな拍手となった。

「皆、ありがとう。会社の事を思えば、会長とメグさんの事は伏せておいた方が良かったのかも知れない。だが、それでは真相を伝えられず、H宝堂の悪しき歴史を払拭出来ないと考えた。これからは私の指揮の元、新たなH宝堂に生まれ変わる。皆の力を今一度貸して頂きたい!」原田は頭を下げると歓声と共に大きな拍手が巻き起こった。原田は深くお辞儀をしたままニヤリと笑った。


蓮華、直人、加奈はファミレスに集まり、ワイドショーのLIVE配信の動画を見ていた。

「...決まりね。」蓮華が言うと、加奈も直人も頷く。

「原田の近くにおる事は間違いない。会長の死ももしかすると...。」直人は言う。

「けど、それだと、魂か寿命を取られる訳でしょ?だったら、原田は死ぬんじゃない?」加奈は言う。

「...魂を分ける、もしくは若返って寿命を削れば済む話よ。」蓮華は言う。

「原田は上手い事契約したんやな?」直人は聞くと蓮華は頷く。

「どういう事?」加奈は聞く。

「悪魔ってのは大概、魂、または寿命の契約によって動く。原田はそれを狡猾に利用したんや。望みを言う前に色々と確認したんやな。」直人は言うが加奈は首を傾げる。

「極端な話、1つだった魂を100個に分ける事から始めた。せやから、会長の事故死の望みと、身の潔白を証明するという望みを叶えても死なんのや。」直人は言う。

「それじゃ、叶え放題ってこと?」加奈は聞く。

「極端な例えの話や。」直人は言う。

「何というか...、意外にアホなのね...。悪魔って。」加奈は残念そうに言う。

「...魂や寿命を取る事だけじゃない。その仮定を楽しむのが悪魔よ...。」蓮華は言う。

「ねぇ?さっきの報道で舞夢の疑いも晴れたんじゃない?」加奈は言う。

「いや、まだや。メグの遺書が残っとる。そこが解消されてないところを見ると、原田の前はメグが悪魔と契約していたのは間違いなさそうや。」直人は言う。

「...そう、悪魔の契約は簡単には消えない。」蓮華は言う。

「せやな。原田が今契約していたとして、望みは、会長の死、そして身の潔白を証明する事。で、それは叶えられた。メグの望みが舞夢ちゃんを貶める事なんやとしたら、枕営業疑惑の原田は関係なくなったとしても、残された遺書の嫌なイメージの効力はそう簡単には消えへん。」直人は言う。

「完全に無くすには?」加奈は聞く。

「...悪魔を倒す事。」蓮華は言う。

「...なぁ蓮華さん、ずっと気になってたんやけど、悪魔って実態あるんかな?」直人は聞く。

「...さぁ?」蓮華は答える。

「無かったらどうやって戦うの?」加奈は聞く。

「神話力を具現化するんや。」直人は言う。

「武器に纏わせたり、己の眼を強化すればその姿も見えるやろ。」直人は言うと蓮華も頷く。

「私、まだ神話力の使い方上手くないかも...。」加奈は苦笑いを浮かべる。

「...私の戦い方を見て学びなさい。」(お兄様への私の活躍の報告も忘れないでよ♪)蓮華はクールに言う。


慎司は玉藻前に会いに、美代と大江山に来ていた。

「お久しぶりです。玉藻前様。」慎司は言う。

「元気そうじゃな。東の統治者よ。それに水影の当主も変わらぬな。」玉藻前は笑う。

「お互いに。」美代も笑う。囲炉裏部屋で囲炉裏を囲む様に全員腰を下ろす。

「して、どうするのじゃ?」玉藻前は慎司に言う。

「実は前々から、考えてはいたのです。最早、統治者という、システムはいらないのではないかと。」慎司は言う。慎司は続ける。

「ギルドが思いの外、大きくなっており、妖しに関わる事件の殆どはギルドがその役割を担っている。時代は変わったと思いますが、もしや、玉藻前様はこれを見越して、あの時西の統治者をお引き受け下さったのでは?」慎司は笑いながら聞く。

「流石じゃの。その通りじゃ。まだ死なぬとは言え、儂ももう歳じゃ。昔の様には行かぬよ。その時代に生きる者達で形を変えて行ったら良いのじゃ。それに、その方がお主も肩の荷が下りるじゃろう?」玉藻前は聞く。

「はい。最早名前だけの統治者ですけどね。」慎司は笑う。

「じゃが、その肩書きがお主の本来の力を封じ込める鎖となってはおらんか?」玉藻前は言う。

「その通りです。では、東西合意の上で統治者制度は廃止といたしましょう!美代婆ちゃん、見届け人ね。」慎司は笑う。

「その為に連れて来たのか。」美代は笑う。

「新幹線代を浮かすのもある。」慎司は笑った。

「慎司殿。ギルドに所属するのか?お主ならば、SSSは間違いなかろう。」玉藻前は言う。

「いえ。ギルドには所属しません。少し気になる事もあるので、フリーでいます。」慎司は言う。

「その方が良いだろうな。」美代も言う。

「うむ、そうか...。ギルドが活発なのは良いのだが、何やら、不穏な動きもある様じゃ。慎司殿がギルドに入ってくれたら、それも治まるかと思うたが...。」玉藻前は言う。

「例え、俺が入って治ったとしても、それは一時的なものですよ。根本的な解決には至らない。」慎司は言う。

「確かにな...。」玉藻前は考え込む。

「交渉人Sは信頼出来ますね。」慎司は玉藻前に聞く。

「あぁ。ギルド創設以来の付き合いじゃ。西の統治にも随分力を貸してくれた。」玉藻前は言う。

「了解しました。それでは玉藻前様、私達はこれで失礼いたします。」慎司と美代は頭を下げると、表に出て異界の門で姿を消した。

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