〜望みの代償は〜 御剣 蓮華

日付が変わり午後1時55分、如月家道場には直人、加奈、華月が集まっていた。

「華月先輩、ヒドいじゃないですか?舞夢ちゃんに会うたらしいやないですか?依頼の報告の時は連れてって下さいよ!」直人は華月に言う。

「本当に好きなのだな。」華月と加奈は笑う。その時、インターホンが鳴った。

「俺が出る。」華月は言うと、正面玄関に向かう。

「SSSかしら...。」加奈は直人に言う。

「せやな。どんな人物か楽しみや。」直人と加奈はお互いに顔を見合わせる。暫くして、華月が道場の入り口に姿を現す。その後ろには、20代半ばであろう、長い艶やかな黒髪を後ろで束ねた美しい女性が立っていた。

「顔合わせの場所がこんな所で申し訳ございません。」華月は女性に言う。女性は道場内を見渡すと、

「いえ...。」女性は華月から目線を逸らす。華月は微笑むと、女性を加奈と直人の前に案内する。座布団の上に座っていた、加奈と直人は立ち上がる。

「初めまして。御剣 蓮華(みつるぎ れんか)と申します。」蓮華は直人と加奈に頭を下げる。その所作は凛として、見る者を惹きつける。

「初めまして。如月加奈です。」

「初めまして。百地直人です。」2人も蓮華に頭を下げた。

「宜しく...。」蓮華は一言そう言う。

「光栄です!SSSが御剣さんの様な、素敵な女性だなんて、思っても見ませんでした。」加奈は言うと直人もコクコクと頷く。

「...私の事は蓮華でいい...。」蓮華は2人に言う。

「あ、私も加奈でいいです♪」加奈は言うと、

「俺も直人でいいです!」直人も言う。蓮華はコクリと頷いた。

「どうぞお座り下さい。」華月は言う。蓮華はどこか照れた様に華月から視線を逸らす。

「お兄ちゃん、私、お茶淹れて来るね。蓮華さんは座って♪」加奈はそう言うと蓮華に座布団を差し出して、母屋に消えていった。消えていった加奈を目で追いながら、失礼しますと座布団の上に正座する蓮華。華月も直人もそれと同時に腰を下ろす。

「...やはり妹さんでしたか。」蓮華は華月に目を合わさずに言う。

「はい。ご迷惑をお掛けすると思いますが、宜しくお願い申し上げます。」華月は頭を下げる。

「いえ、そんな事はないと思います。」蓮華はクールに答える。

「だと良いのですが...。ところで蓮華さん、御剣の名は、もしや御剣 創安殿の家系でございますか?」華月は聞く。

「流石ですね。お察しの通り、私の遠い先祖に創安はおります。」蓮華は言う。

「やはりそうでしたか。創安殿の遺作となる紅蓮を折ってしまい、誠に申し訳ございません。」華月は蓮華に頭を下げる。

「...やめてください!どうか、頭を上げて下さい。あの刀は我が先祖の創安が水影家に託したもの。その後どうなろうと、御剣家は関与いたしません...。」蓮華は淡々と話す。

「ありがとうございます。それにしてもまだお若いのに、SSSとは素晴らしい。」華月は心底そう思っていた。

「...華月様程ではありません。」蓮華は照れた様に顔を背ける。

「いや、ホンマに凄いお人やで。ピンでの活動には何か訳があるんですか?」直人は聞く。

「訳などありません...。ただ人と必要以上に関わるのが苦手なだけです...。」蓮華は冷静に答える。

「お待たせしましたー。」加奈は人数分のお茶を淹れて持って来た。1人1人に配る。皆、一口お茶を啜ると、

「始めましょうか。」と華月は皆に言う。

「あれっ⁈慎司くんはいいの?」加奈は華月に聞く。

「別件が入ったみたいで来れなくなった。」華月はチラリと蓮華に顔を向ける。

「蓮華さんがいれば、大丈夫だろう。」華月は言うと蓮華は冷静にお茶を啜る。


だが、実はこの蓮華、内心は違っていた。

(いや〜ん!華月様ったら、先程から蓮華、蓮華って私の名前を連呼して!私の顔も凄い見てくるし、結婚なさってるんじゃないの?いや、華月様なら結婚しててもいいわ。結婚とかそういう事じゃないのよ。例えワンナイトラブでも構わないの❤️華月様のお側に居られるだけで、もう同じ空気吸ってるって考えただけで、イキそう...。ハァ❤️蓮華幸せ❤️)

つまり、ド変態の華月フェチなのである。今回の依頼も、交渉人Sに前々から、万が一如月華月から依頼があれば、教える様にと秘密裏に交渉していた。今回やっと華月に表立って近づく大義名分が出来たのだった。今までも、何度か近づこうと試みたが、それらは綾乃によって、全て秘密裏に片付けられていた。

(今日は何故かあの女もいないし、最高の日だわ。ハァ❤️それにしても、華月様いい匂い❤️髪も艶やかで素敵💓華月様、気づいてるかしら?私の髪の長さ、華月様とピッタリ同じにしている事。髪型だって華月様とお揃いなんだから。)蓮華は流し目で華月を見る。


「お任せ下さい。」蓮華はクールに答える。

「期待してます。」華月は言うと蓮華は頷く。

(いや〜ん、期待してますだって。華月様ったら、何を想像なさるの?私も色んな事を期待しちゃう❤️)

「まずは、概要から。アイドルグループ〝sai〟そのメンバーである瑞原舞夢。彼女が今回の依頼人だ。俺は彼女の代理人。事の発端は、同グループメンバーのメグに、S区のホテルに呼び出された舞夢がH宝堂の社長と枕営業したのではないかと騒がれた事。」華月が言うと、3人は頷く。

「実はメグにはH宝堂の社員と枕営業の疑いがあり、その事で舞夢と楽屋で口論になり、メグは出て行く。その後、舞夢にメグから連絡が入り、舞夢はホテルへ。だが、メグはその時自宅にいた。H宝堂の社長は記憶が欠如している模様だ。その後、社長は入院。メグは遺書を残して自殺。遺書には舞夢の悪口が書かれていたそうだが、事実無根の話。舞夢とメグは元々折り合いが付かなかった訳ではなく、ドイツのシュタウフェンに撮影に行った辺りから、変わってしまった様だ。」華月は一息つく。

「シュタウフェン...。魅入られてしまったのですね...。」蓮華は華月に聞く。

「その様だ。メグは恐らくメフィストフェレスに魅入られて、望みの代償に魂を奪われた。」華月は言う。

(私は華月様に魅入られております❤️)

「悪魔が今回の敵なんですね?」直人は聞くと華月は頷く。

「所在はわからんのだが、恐らく、事件の関係者の近くにいる。」華月は言う。

「先輩!舞夢ちゃんが次に狙われる可能性もあるんやないですか?」直人は言うと、華月は首を横に振る。

「それはない。舞夢の家に行った時に、婆ちゃん特製の結界を張った。舞夢には家から出るなと行ってある。万が一、家を出る様な事態なら、俺に連絡が来る。」華月は言う。

「流石、お兄ちゃん。いつの間に...。」加奈は感心する。

「とすれば、瑞原舞夢以外で〝sai〟に関わった人間で劇的にこれから変化が現れる人。その人の元に悪魔はいる。その劇的な変化は契約による事象の捻じ曲げでしょうからね。」蓮華は言う。

「...流石ですね。ご理解が早くて助かります。」華月は感心する。

(私も早く華月様の全てを理解したい❤️)

「直人くん、加奈ちゃん。連絡先を。」蓮華はスマホを出す。加奈も直人もそれに習う。3人は連絡先の交換を行った。

「華月様、此度のご依頼、慎んで承ります。」蓮華が言うと直人も加奈もそれに続く。

「宜しくお願い申し上げます。」華月も頭を下げた。

「では、私はこれで失礼いたします。」蓮華は立ち上がる。

「玄関までお送りいたします。」華月も立ち上がる。加奈と直人も立ち上がり玄関に向かおうとしたが、華月はそれを手で制した。門の前に来ると蓮華は華月に向き直る。

「本日はありがとうございました。」蓮華は頭を下げる。

「いえ、こちらこそ。...蓮華さん。」華月は言い淀む。

「...妹さんの事ですね。既に交渉人Sから連絡は受けています。」蓮華が言うと華月は頷く。

「指名して私に依頼を?」蓮華は華月に聞く。

「ギルドの事は俺にはよくわからない。だが、貴女の様な方が(加奈の)側にいて下さったら安心だ。不躾なお願いである事はわかっておりますが、どうか、妹をお守り下さい。」華月は頭を下げる。

(華月様とこれからも会える口実になるわ。)

「承知いたしました。ご依頼、慎んで承ります。」蓮華は頭を下げる。

(成功報酬は私の不躾なお願い聞いてもらいましょ❤️あぁ!楽しみ過ぎるわ!)

蓮華は如月家を後にした。

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