〜望みの代償は〜 契約

華月はギルドの交渉人Sから連絡を貰っていた。

「まさか、SSSがエントリーしてくるとは...。」華月は言う。

「如何いたしますか?」交渉人Sは言う。

「断る理由はない。こちらとしては、より確実な成果を期待出来るというもの。報酬目当てでは無さそうだしな。」華月は言う。

「では、今回の案件、3名で対応させて頂きます。」交渉人Sは言う。

「東の統治者に協力を頼んでいるのだが、SSSがいるのならキャンセルした方が良いかな?」華月は聞く。

「いえ、構わないでしょう。如月さんと高原さんは、我々の世界では伝説の存在。SSSと言えど良い励みになるはずです。」交渉人Sは言う。

「伝説か...。中二病の慎司が好きそうな言葉だな。」華月は笑う。

「で、SSS、どんな人物だ?」華月は聞く。

「...寡黙ですが、淡々と依頼をこなすイメージですね。」交渉人Sは言う。

「そうか...。明日の14:00に如月家に来る様に伝えて下さい。」華月は交渉人Sに言う。

「承知いたしました。」交渉人Sは言う。

「加奈はどうだ?」華月は声のトーンが柔らかく聞く。

「MC(ミッションコンプリート)率はSSSに次いで2番目です。次の成果でランクAに上がるでしょうね。報酬を受け取らないのは問題ですが...。」交渉人Sは言う。

「すまん、迷惑をかける。だがもし、俺が所属員だとしても同じ事をしていただろう。閻魔大王の縛りと思ってくれ。」華月は笑う。

「直人がアドバイスした様ですので、様子を見ます。それから、例の件ですが...。」交渉人Sはそこまで言って止める。

「夕方でなければ、いつでも。」華月は言う。

「ありがとうございます。明日の10:00にk駅前で如何でしょうか?」交渉人Sは言う。

「承知しました。」華月は言う。

「では明日宜しくお願い申し上げます。」交渉人Sは言う。

「こちらこそ宜しくお願い申し上げます。」華月も言うと電話を切る。

「お疲れ様でございました。」綾乃がお茶を淹れて現れた。

「ありがとうございます。」華月はお茶に口をつける。

「パパぁ疲れてる?」友里は聞く。

「...?あぁ、お疲れ様か。お疲れ様というのは、大人の挨拶なんだよ。」華月は友里を優しく撫でる。

「そうだ友里、明日、婆ぁばの家に行くか?」華月は友里に聞く。

「いく〜‼︎」友里は笑顔で答える。

「宜しいのですか?」綾乃は華月に聞く。

「明日、午前中は交渉人Sと、午後は加奈達と予定が入ってしまいまして。後で婆ちゃんには電話しておきます。」華月は言う。

「承知いたしました。私も一緒に美代様の所に参りますね。」綾乃は言う。

「お願いします。」華月は言うと友里を抱っこした。


昼休み、昼食を終えた加奈と直人は屋上に姿を現す。

「ねぇ、SSSってどんな人?」加奈は直人に聞く。

「...実は俺も会うた事ないんや...。交渉人Sの話では、ピンで活動している、孤高の存在やと聞いてる。まさか協力する事になるとはなぁ。」直人は言う。

「ふ〜ん。明日が楽しみね。」加奈は笑う。

「そやな。俺は舞夢ちゃんに会えるのが楽しみやな。」直人は満面の笑みを浮かべる。

「明日は来ないでしょ?」加奈は直人に言う。

「えっ⁈」直人は驚いた様に加奈を見る。

「えっ⁈じゃないわよ。ウチのお兄ちゃんが、ギルドとの窓口でしょ。舞夢には会えないでしょ。会えるとしたら、依頼を片付けて最後の報告に伺う時に、お兄ちゃんにくっついて行くしかないわね。」加奈は言う。

「...俄然やる気が削がれたわ...。」直人は肩を落とす。

「ちょっと!しっかりしてよね。請け負った以上、やり遂げるのが私達の使命でしょ!」加奈は直人の背中を叩く。

「わかっとるがな。それでもモチベーション下がるわぁ...。」直人は力無く項垂れる。

「頑張んなさいよ!お兄ちゃんと会いに行った時、サイン頼んでおいたからさ。」加奈は言う。

「ちょっと待て!お兄ちゃんと会いに行った⁈舞夢ちゃんに会うたんか?」直人は驚いて加奈を見る。

「あ、うん。お兄ちゃんが行くって言うからついて行ったのよ。異界の門のやり方も教わりがてらね。」加奈は言う。

「何で声掛けてくれへんねん!」直人は興奮する。

「アハハ...。ゴメン。」加奈は両手を合わせる。

「華月先輩も華月先輩や!知り合いなんやったら、言うてくれんと!」直人は1人で憤慨する。

「まぁまぁ。しっかり依頼こなしてアピールするしかないわね。」加奈は直人に言う。

「せやな!誰が相手でも必ず倒したる!」直人は意気込む。

(直人がこんなにも、単細胞だとは思わなかったわ。)加奈は苦笑する。


T大附属病院の個室に入院中の原田は、ベッドに横たわり天井を眺めていた。

(何故だ⁈何故、私がこんな目に遭わなければならないのか?)そんな想いを抱いていた。

「...すまんな...。主をそんな目に遭わせたのは、我の仕業だ。」突如低い声が頭に響く。

「誰だ!」原田は上体を起こして辺りを見渡す。だが、誰もいない。そんな原田の頭にまた声が響く。

「...我はある女の望みを叶えてやった。結果、主が巻き込まれたのだ。」低い声は言う。

「冗談ではない!私が何をした?」原田は独り言の様に叫ぶ。

「そう...。主は巻き込まれただけ。そんな主を不憫に想い、我は馳せ参じた...。」低い声は言う。

「何者だ!貴様!」原田は言う。

「...我はメフィストフェレス...。人は我を悪魔と呼ぶ...。」低い声は言う。

「悪魔...。ふざけるな!現代社会で悪魔など、誰が信じるか!」原田は言う。

「...無理もない...。だが、その身に起こっている事は紛れもない事実。...巻き込んでしまった詫びに、1つ、主の願いを叶えてやろう...。」低い声は言う。

「願いを叶える?ハッ!馬鹿馬鹿しい。もし本当に願いが叶えられるなら、私をこんな目に合わせた会長の息の根を止めてくれ!」原田は言う。

「...承知した...。」低い声は消えた。

(どうかしている。悪魔だと?誰のいたずらだ!馬鹿にしやがって!必ず見つけ出して、制裁を加える!)原田は横になり、布団を被った。


いつの間にか眠りに落ちていた原田は、電話の着信音で目を覚ます。電話の主は秘書の渡辺であった。

「もしもし。」原田は不機嫌そうに電話に出る。

「社長!会長がお亡くなりになられました!」渡辺は慌てた様に言う。

「何⁈」原田は耳を疑う。

「交通事故に遭われまして、病院に搬送されたのですが...。残念ながら。」渡辺は言う。

「そうか...。誠に残念だ...。私はこんな状態だ。後の事は総務部に一任すると伝えてくれ...。」原田はニヤリと笑いながら言う。

「すみません社長。社長がご入院中である事は重々承知しておりましたが、どうしてもご一報しなくてはと思いお電話してしまいました。後の事は承知いたしました。」渡辺は言う。

「いやいや、連絡をくれて良かった。ありがとう。後の事は頼む。」原田は秘書に言う。

「承知いたしました。失礼いたします。」渡辺は電話を切る。

「クククッ。」原田は笑い出す。

「...如何かな?我の力は?」低い声は原田の頭に問いかける。

「最高だよ。正直、誰かの悪戯かと思っておったが、まさかこの様な事が可能とはな。」原田は天井を見上げる。

「...ご満足頂けて何よりだ...。さて、本題なのだが...。どうだろう?我と正式に契約せぬか...?」低い声は言う。

「悪魔と言ったな...。願いを叶える代わりに、私の寿命、魂を差し出すと言った所かな?」原田は聞く。

「...察しが良いな。...その通りだ。」低い声は言う。

「その前に聞きたい。先程、詫びとして1つ願いを叶えると言ったな?会長の件はサービスだな?」原田は聞く。

「...そうだ。詫びだ。」低い声は答える。

「結構。では、本契約と行こうじゃないか。」原田はニヤリと笑う。

「...主の望みは必ず叶える...。その代わり、主の魂を貰う...。」悪魔は言う。

「良かろう。少し考える。」原田は言うと、黙り込む。

(ほぅ。すぐに飛びついて来ぬ所は、年の功といったところか。)悪魔は思う。暫くして、原田は口を開く。

「どんな願いも可能か?」原田は聞く。

「可能だ...。」悪魔は答える。原田はニヤリと笑った。

「まず始めに、私の魂を10個にして貰おう。」原田は言う。

「...ほぅ。考えたな...。」悪魔は原田の突拍子もない考えに感心した。

「出来るのだな?」原田は聞く。

「...無論だ。」悪魔が言うと原田の身体はうっすらと光を帯びた。

「...コレで主の魂は10個になった。が、正確には残り9つだ。今の望みで1つ頂いたからな。」悪魔は言う。

「構わんよ。9つもあれば...。」原田はニヤリと笑う。

「悪魔よ、質問だ。1つの願いで魂を1つ失うのだな?」原田は言う。

「...左様。だが、もう一つ方法がある。我との契約は、魂を頂くか、寿命を削るかだ。」悪魔は答える。

「つまり、残された寿命を削って契約する事も可能という事か...。」原田は考え込む。

「魂の契約は、望みの大小に関わらず、1つにつき、1つ頂く。」悪魔は答える。

「結構だ。確認だが、同じ望みは叶えられないな?」原田は聞く。

「...何故そう思う?」悪魔は原田に聞く。

「私の様に狡猾な者がいたら、魂は無限に増やせば願いは叶え放題だからだ。」原田は言う。

「...そこまでわかっていながら、何故、魂の数を無限としなかったのか?」悪魔は問う。

「...大抵の事はしてきた...。最早、多くは望まぬよ。」原田は思い出す様に言う。

「...随分と謙虚なのだな。」悪魔は言う。

「多くは望まぬが、折角の力だ、楽しませて貰うよ。」原田は笑う。



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