〜連続婦女暴行事件〜 神無月の鬼
如月家に戻った加奈は、自室で着替えを済ませて、道場に向かった。道場では正座をした華月が瞑想していた。その前には、一輪の華が活けられていた。加奈の気配に気づいた華月は目を開ける。
「似合うじゃないか。」華月は笑う。加奈は朝プレゼントされた、ハーフジャケットを羽織っていた。
「お兄ちゃん、私、間違ってないよね?」加奈は不安気に聞く。
「自分の正義に自信を持て。その胸にある正義は人の心の痛み。加奈は閻魔大王直属の神無月の鬼。人の世で裁けぬ者を裁くのが力を与えられた者の使命だ。」華月は言う。
「うん。」加奈は真顔になる。
「統治者に連絡は?」華月は加奈に聞く。
「メールで連絡した。」加奈は答える。
「お姉ちゃん!」友里がいつのまにか、道場に現れ加奈に抱きつく。
「友里ちゃん。ゴメンね。お姉ちゃんこれからお出かけするのよ。また今度遊ぼうね。」加奈は笑顔で友里に言う。
「うん!やくそく!」友里は加奈に言う。
「良かったわね、友里。」綾乃がいつの間にか道場に来ていた。
「うん!」友里は満面の笑みを浮かべる。
(私に帰る場所を示してくれてるみたい。ありがとう。)加奈は笑顔でそう思った。
「行ってくるわ。」加奈は立ち上がる。
「加奈様、お気をつけて。」綾乃は言う。加奈は頷く。華月を見ると、華月は黙って頷いた。加奈も頷くと道場を後にした。
時刻は19時30分。ACE社の入っている隣の雑居ビルの屋上に加奈と直人は待機しながら、隣の様子を伺っていた。下にはパトカーが停まり警察官2人がACE社に訪れていた。
「何の用かしら?直人、読唇術してくんない?」加奈は直人に言う。
「わかった。」直人は読唇術を始める。
「安斉さん、お加減いかがですか?」警察官の1人は言う。
「大した事はないわ。警察の方じゃ、パトロール強化ってトコかしらね。」安斉は言う。
「仰る通りです。」もう1人の警察官は言う。
「犯人像は?」安斉は聞く。
「H駅を通学通勤に使う、または現場周辺に住む男性に絞られてますね。」警察官は言うと安斉はニヤリと笑った。
「大衆は気づく事もないわ。被害者が女性という事だけで、勝手に男性だと犯人像を絞り込む。」安斉は笑う。
「俺らも、おこぼれを頂ける。」警察官2人は笑うと、全員笑った。
「それにしても、何者なんですかね?俺たちを襲ったのは?」ACE社の社員は言う。
「只者じゃないわね。妖しの力を持つ者。ギルドかも知れないわ。」安斉は言う。
「俺らに賞金がかけられている?」ACE社の社員は聞く。
「かも知れないわね。でも、何故私達を逃がしたのかしらね?あの時、決着はついていたはずなのに。」安斉は考える。
「たまたま降りかかる火の粉を払った?正規の依頼ではなかった?」警察官は言う。
「あり得るわね。これからは、慎重に下調べしてから、事に及んだ方が良さそうね。」安斉は言う。
隣のビルの直人は読唇術を終える。
「あんた達にこれからはないわ。」加奈は静かに言う。
「ねぇ!ギルドからの連絡はまだなの?」加奈は直人に言う。
「今、確認してるよ。」直人はスマホを操作する。
「ったく、いつもおっそいんだから。逃げられちゃうじゃない。」加奈は言う。
「来たよ。GOサインだ。」直人は加奈に言う。
「オッケー。」加奈は屋上から飛び立つ。加奈の背から、10本の角が出て、角同士の隙間を埋めると、角は羽と化す。加奈は大きく羽ばたいた。
ACE社の扉の前で加奈はインターホンを押す。
「はい。」男性の声がした。
「依頼に来ました。」加奈は言う。
「少々お待ち下さい。」男性は言うとインターホンは切れる。
「依頼人みたいです。」男性社員は言うと玄関に向かう。
「では、私達はこれで。また連絡お待ちしてます。」2人の警察官は安斉に言うと、玄関に向かう。そこで、男性社員と加奈と会った。
「あ、お巡りさん。良かった。お巡りさんにも聞いて欲しいんです。」加奈は言う。
「...。」警察官2人は顔を見合わせ、中に引き返す。
「こちらへどうぞ。」男性社員に案内され、俯いた加奈は安斉の前に通される。
「初めまして。所長の安斉です。どうしたのかしら?」安斉は聞く。
「私の友達が、襲われて...。あなた達を裁きに来たのよ。」加奈はそう言うと俯いた顔を挙げる。
「‼︎あなたは!」安斉の顔は驚く。安斉のただならぬ様子に男性社員2人と警察官2人も気づく。
「まさか、警察官までグルとはね...。」加奈は警察官2人に言う。
「何の話だ?」警察官の1人は言う。もう1人は警棒を握り締めた。
「この娘が私を襲った犯人よ。」安斉は言う。
「襲った?私のは正当防衛。襲ったのはおばさんでしょ。」加奈は言う。
「お、おばさんですってぇ!」安斉は憤慨した。
「どう見たっておばさんでしょ。妖しの力を若作りに使うべきね。」加奈はニヤリと笑う。
「許さない!」安斉は加奈に襲い掛かる。その口元からは長い舌が出て、幾つも枝分かれした。加奈の身体を捉えたと思った瞬間、加奈は上に飛び上がり、その顔に蹴りを喰らわす。安斉はデスクの上を滑る様に吹っ飛ばされ、やがて壁にその身体を打ちつけた。加奈は床に着地すると、男達4人に向き直る。社員の男の1人は既に加奈に飛び掛かって来ていた。加奈はヒラリとその身を躱すと、躱し様に男の腹に膝をメリ込ませる。男の身体はくの字に折れ倒れ込む。もう1人の男は姿を黒い妖しに変化させ、長い舌を加奈に伸ばした。シャキンっ!と音がしたかと思うと、その舌は床に転がった。
「アアアーっ!」妖しは声を上げながら、床にへたり込む。その顔面に加奈は蹴りを見舞う。妖しは床に仰向けに倒れた。
「動くな‼︎」警察官の2人が銃を構えて加奈に言う。
「撃ってみなさいよ。」加奈は真っ直ぐに警察官を見据える。警察官は焦燥感に追われ、その引き金を引いた。キィイインと弾丸を弾く音がする。加奈の背から10本の角が加奈の身体を守る様に覆い被さっていた。
「バ、化け物!」警察官2人は同時に銃を撃つ。角は弾丸を弾き、加奈の身体には届かない。加奈は一気に間合いを詰めると、男達を角で払う。警察官2人は吹き飛ばされ、壁にその身体を強打し、床に崩れ落ちた。
「ご苦労さん。」いつの間にか、スマホのカメラを構えた直人が姿を現していた。直人は一旦カメラを止め、倒れた者達を一箇所に集める。そしてまたカメラを回し始める。
「私は閻魔大王直属の12鬼神。」加奈の髪色は銀に変わっていく。その瞳は金色に輝く。
「私は神無月の鬼。あなたの罪を裁きます。」加奈の瞳が眩い光を放つと、気絶していた5人は意識を取り戻し、叫び、苦しみ出した。5人は焼かれた針でその舌を突き刺され、ハサミでその舌を切り落とされる。だが、またその舌は生え、また同じ様に焼かれた針で突き刺され、また舌は切り落とされる。5人はのたうちまわり、やがて意識を失った。直人はカメラを止める。
「この地獄は?」直人は加奈に聞く。
「大叫喚地獄。焼かれた針でその舌を突き刺され、ハサミでその舌を切り落とされる。でも、またその舌は生え、また同じ様に焼かれた針で突き刺され、また舌は切り落とされる。あかなめにはピッタリの地獄ね。犯した罪の分だけ、無限に繰り返されるわ。」加奈は言うとその髪色と瞳は元の色に戻った。
「痛そう。」直人は舌を出しながら眉間にシワを寄せる。
「ねぇ、私達のバディ名を考えたんだけど。」加奈は笑いながら言う。
「何?」直人は聞く。
「judgement night NEOってのはどうかしら?」加奈は言う。
「恐れ多いな。」直人は苦笑いする。
「決まりね!」加奈は笑いながら言う。2人はその場を後にした。
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