〜連続婦女暴行事件〜 女性の敵

塚原邸を出た直人と加奈は、駅前の喫茶店に入っていた。

「で、作戦は?」加奈は直人に聞く。

「囮しかないと思うが...。」直人はコーヒーに口をつけながら言う。

「やっぱりね...。だと思ったわよ。」加奈は呆れた様に言う。

「頼む。」直人は加奈に言う。

「わかったわよ。」加奈は渋々了承する。

「一体とは限らんぞ。」直人は言う。

「うん。わかってる。直人こそ、滅殺しないでよ。」加奈は言う。

「あぁ。さぁ、じゃあ行ってみるか?」直人は言うと加奈は頷く。


時刻は19時30分。H駅で降りたった、加奈はM線沿いに歩き出す。遠くにパトカーの赤い光が見える。犯人への牽制のつもりなんだろうが、すれ違う一瞬をやり過ごせば、犯人からしてみれば、何にも怖くはない。

加奈は何者かにつけられている事は、とっくに気づいていた。素人らしく、後ろを振り返り、足早に道を行く。そして真由美と同じ様に、ジョギング姿の女性に追いつかれた。加奈はその女性を見ると話掛ける。

「あ、あなたは...。ワイドショーとかに出ていますよね?」加奈は驚いた様に言う。

「あら?光栄ね。その通り。安斉広美よ。パトロールがてらね、この辺りをジョギングしているのよ。」広美は笑いながら言う。

「で、私を心配して、来てくれた訳ですか?」加奈は聞く。

「そう。あなたが1人で道行くのが見えたからね。」広美は言う。

「私、足速いですよ。バスケで鍛えてますから。」加奈は笑う。

「あら楽しみね。じゃあ、あそこの大通りまで競争ね。」広美は言う。

「いいですよ。いつでもどうぞ。」加奈は構える。

「行くわよ。3、2、1、Go!」広美の掛け声と共に2人は一斉に走り出す。加奈はグングンとその差を広げて行った。あっという間に大通りに到達する。後ろを振り返ると広美はいない。

「ンーー‼︎」突如、広美のものと思われる呻き声が道の横の茂みから聞こえた。加奈はそこまで引き返す。

(なるほどね。普段ならここで真横から襲われるワケね)加奈は思う。

「ン!んんーー‼︎」広美は茂みの中から、声を出す。だが、現れるはずの者は現れない。加奈はその様子を道の端から見下ろす様に見ていた。広美と思われる女性の上に、黒い人外が覆い被さっているのが見えた。人外は突如、その目標を加奈に切り替えて一気に間を詰める。だが、その攻撃が加奈に届く事はなかった。キシキシと別の音がして、加奈に襲い掛かった人外は百足の触手に捕らえられていた。

「⁈」広美はその様子を倒れながら、見ていた。

「大丈夫ですか?」加奈は広美と思われる者に声を掛ける。広美はゆっくり立ち上がり、加奈に身体を向けると、加奈に襲い掛かった。加奈は無表情で攻撃を躱し、その顳顬に強烈な一撃を見舞う。広美は倒れた。人外を締め上げて気絶させた直人が加奈の隣に来る。

「マイ◯ンバーカードを交渉人Sに写メで送った。」直人は言う。

「この女は調べるまでもないわよね。」加奈は自分の足元に倒れた広美を見ながら言う。

「あぁ。身元は割れてるからな。」直人は言う。加奈と直人はその場を後にした。


次の日、TVのワイドショーでは、連続婦女暴行事件の新たな被害者として、安斉広美が襲われたと報道がなされていた。

「コレじゃ、まるっきり、私が犯人みたいじゃない?」如月家の居間で朝食を食べていた、加奈は独り言の様に言う。

「で、今夜か?」華月は加奈に聞く。

「そうね。人外2体の身元が確認出来たら、直人と乗り込むわ。」加奈は言う。

「そうか...。加奈、お前にプレゼントがある。」華月はそう言うと、綾乃と友里が居間に現れる。

「何?」加奈は友里と綾乃を見る。

紙袋を持った友里は加奈に近づく。

「お姉ちゃん、ハイ。」友里は加奈に紙袋を渡した。

「ありがとう。」加奈は笑顔で友里の頭を撫でて紙袋を受け取った。紙袋の中身を加奈は見る。そこには黒いハーフジャケットが入っていた。

「コレは...。」加奈はジャケットを取り出すとマジマジと見る。

「繊維の1本1本に神話力を編み込んである。少し位の妖力であれば、跳ね返してしまうだろうな。だが、くれぐれも気をつけてな。何かあれば、いつでも力になる。」華月は加奈に微笑みながら言う。

「ありがとう!お兄ちゃん!」加奈は満面の笑みでジャケットに袖を通すとクルリと回転した。

「どう?」加奈は華月達に聞く。

「お姉ちゃん、カッコいい!」友里は言う。

「お似合いでございます。」綾乃も微笑む。

「似合っている。」華月も言う。

「ハーフジャケットってところがいいわね。流石は綾乃さん。」加奈は綾乃を見る。綾乃は頷く。

「何故綾乃さんだとわかった?」華月は聞く。

「お兄ちゃんじゃ、ロングにしそうだもの。」と加奈は笑った。綾乃も友里も笑う。華月はフッと笑った。


Y駅の雑居ビル4階に株式会社ACEはあった。

株式会社ACE。元S県警地域安全対策推進室室長安斉が立ち上げた、探偵事務所である。安斉は頭に包帯を巻いた状態で出社する。

「社長、大丈夫ですか?」社員の1人は言う。

「えぇ。まさか私が襲われるとは思っても見なかったわ。」安斉は言う。

「おはようございます。社長、S局と、T新聞社から取材の依頼が入っておりますが...。」別の社員は言う。

「受けるわ。会議室を用意しておいて。マスコミには午後3時から緊急記者会見を行うと伝えてちょうだい。」安斉は言う。


午後3時。TV局は安斉がゲスト出演している、S局の他2局、新聞社はT社の他に5社が集まった。

「只今より、緊急記者会見を行います。基本質問形式で行いますが、安斉の体調により、予定時間より短くなる事もございますので、そこはご容赦下さいませ。」社員の1人は言う。安斉は頭に包帯姿で現れた。カメラのフラッシュがたかれる。安斉は長テーブルの真ん中に立つとマスコミにお辞儀する。

「宜しくお願いします。質問のある方は挙手にてお願いいたします。」安斉は言う。S局の取材者が手を挙げる。

「いつもお世話になっております。S局です。今回、安斉さんは犯人と思われる人物に襲われたという事ですか?」

「はい...。その様です。私はM線沿いをパトロールも兼ねて、ジョギングしておりましたところ、犯人と思われる人物に後ろから、頭を殴られ気絶いたしました。...。」安斉は言葉を詰まらせる。フラッシュの嵐が巻き起こる。

「身体の傷もさることながら、心の傷も癒えない状態で、医師からは検査入院を勧められたのに、その日の内に帰宅したそうですね?何故そこまでなさるんですか?」記者は聞く。

「...私はメディアを通じて、再三この事件の事をお話して来ました...。そんな私が、ここで倒れてしまったら、それは犯人に屈する事になると思ったからです。私は決して屈しない!」安斉は立ち上がって言うと、立ち眩みの様に席に座り込む。気遣う社員を手で大丈夫と制する。一斉に拍手が巻き起こる。安斉はマイクを握る。

「女性の敵は絶対に赦しません。私は今後も戦い続けます。」安斉はそう言うと、マイクを置き、社員に抱えられる様に会議室を後にした。


「...よく、言うわね。」加奈は学校帰りの電車の中でニュース動画を見ながら言う。

「あぁ。だが、コレで益々ヤツを支持する者は増えたろう。政界にでも出るつもりか?最も、それは叶わないだろうがな。」直人は言う。

「交渉人Sからの連絡はまだ?」加奈は聞く。

「身元の確認は終わっている様だ。ACE社の社員らしい。」直人は言う。

「あかなめの巣窟かもね。」加奈は言う。

「かも知れないな。で、塚原親子をどうする?」直人は聞く。

「真由美の状態じゃ、現場で正体確認は無理ね。動画で確認してもらうしかないわね。」加奈は言う。

「わかった。撮影宜しく。」直人は言う。

「...いえ、私が倒すわ。」加奈は静かに言う。

「何匹いるのかもわからないんだぞ?」直人は加奈を心配する。

「...うまく言えないけど、許せないのよ。」加奈は言う。

「私情は判断を鈍らせるぞ。」直人は言う。

「真由美の事だけじゃないの。女として、この安斉は私が裁くべき。そう思うの。」加奈は動画を見ながら言う。

「譲れないものって訳か。わかった。だが、俺が危険と判断したら、手を出すぞ。」直人は加奈に言う。加奈は頷く。2人は一旦それぞれの家に帰った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る