〜連続婦女暴行事件〜 依頼人

加奈と同じクラスの塚原 真由美(つかはら まゆみ)が学校を休んで10日が経過していた。


加奈と直人は放課後、連続婦女暴行事件の依頼人に会うべく、自宅を訪れていた。

「塚原って...、まさか、真由美の家?」表札を見た加奈は真由美の顔が思い浮かんだ。直人はインターホンを押す。

「はい。」女性の声がインターホンから聞こえた。

「百地と申します。」直人は答えると少しお待ち下さいとインターホンは切れた。予め電話連絡でギルドから依頼内容の確認に伺う事は伝えていた。暫くして、玄関の扉が開く。直人と加奈の制服姿を見て、依頼人であろう女性は驚く。

「秘密は守ります。お話を。」直人は女性に言うと、女性は意を決した様に直人達を家の中に招き入れる。リビングに通された直人達は、ソファに腰掛ける。女性はキッチンへお茶の準備をしに行った。加奈も直人も沈黙する。暫くして、女性はお茶を淹れて戻ってきた。直人と加奈にお茶を出す。2人は会釈した。女性は直人達の向かいに座る。

「初めまして。百地と申します。こちらは私とバディを組んでいる、」直人は加奈に目線を送る。

「如月と申します。」加奈は挨拶する。

「宜しくお願いいたします。塚原 直美(つかはら なおみ)です。」直美は2人に改めて挨拶した。

「早速ですが、お話を伺わせて下さい。」直人は切り出す。

「はい...。11日前です、娘がレイプ魔に襲われたのは...。」直美は話出す。


11日前。真由美は友達の家に遊びに行った帰り道、遅くなってしまった焦りから、普段は絶対に通らない近道を選んだ。時刻は19時40分。人気のない線路沿いの道を小走りに急ぐ真由美。不審者がいても、陸上部で鍛えた足腰で逃げ切る自信が真由美にはあった。周りには田んぼと畑しかない。田んぼの用水路沿いに生えた草が、ザワザワと騒めき、不安を駆り立てる。ふと何かに後をつけられている様な気がして振り返る。だが、そこには誰もいない。また小走りで道を進むと、やはり何かに後をつけられている気がした。真由美は再度振り返る。そこには、ジョギングの格好をした女性が真由美の数歩後まで迫っていた。女性はすれ違い様、真由美に声をかける。

「若い女性が1人で歩いてちゃ、ダメよ。」女性はニッコリと笑う。真由美は途端に安心感が込み上げた。

「はい!もうすぐですから大丈夫です。お姉さん、向こうまでご一緒してもいいですか?」真由美は大通りの明かりを指差して言う。

「いいわよ。ついて来れる?」女性は言う。

「足には自信があります。」真由美は笑顔で言うと2人は走り出した。

「お姉さんはいつも、こんな暗い所をジョギングしてるんですか?」真由美は聞く。

「ううん、今日はたまたま、あなたが1人でこの道を進んでいるのを見かけたから、危ないなぁと思って。」女性は言う。

「なんかすみません。私のために。」真由美は謝る。

「いいのよ。さぁ、ラストスパート。あそこの大通りまで競争ね!」女性はスピードを上げる。真由美もついていく。大通りに差し掛かる時には真由美は女性を追い抜いていた。

「ハァハァ!」真由美は後ろを振り返ると女性がいない。田んぼにでも落ちたかと思い、少し引き返す。

「ンーーー‼︎」女性の声と思われる音がした方向へ目線をやった次の瞬間、真由美は真横から何かに体当たりされ、草の上にその身を投げ出す。目を開くと大きな黒い何かにのし掛かられ、身体中を弄られる。真由美は声を出そうとすると、口の中に何かを突っ込まれた。それは喉元まで侵入し、声を出せなくさせた。別の何かが、真由美の全身を舐め回す様に、身体中を這いずり回る。真由美は四肢を動かそうとするも、何者かが真由美の四肢を押さえつける。やがて、真由美の秘部に何かが当てがわれ、秘部を貫いた。貫いた後も何かは内部を蠢いてやがて、真由美は失神した。


気づいた時には病院のベッドの上だった。見回りに来た看護師は意識を取り戻した真由美に話かける。

「大丈夫?どこか痛む所はない?」看護師は優しく聞く。

「...。」真由美は天井を見上げたまま、涙を流した。


「警察の話では、その後の娘の話から複数人の犯行と思われるとの事でした。」直美は言う。

「...娘さん、良く頑張ってお話されましたね。心中お察しいたします...。」直人は言う。

「はい...。」直美は涙を流す。

「娘さんと一緒に走ったという女性も?」直人は聞く。

「...それが、警察の方の話では、娘を発見したのも、女性の声で匿名で通報があったそうなんです。駆け付けた警察の方が倒れた娘を発見して、救急車を呼んだそうです...。」直美は言う。

「⁈」直人と加奈は顔を見合わせる。

「それはおかしいわね。」加奈は言う。

「はい?」直美はわからないといった返事をする。

「...お母さん、私は娘さん、真由美と同じクラスで友達です。」加奈は直美に言う。

「やっぱりそうでしたか!制服を見た時から、そうじゃないかと思ってました。」直美は驚く。

「真由美が嘘の証言をするとは思えない。その女が怪しいわね。」加奈は直人に言うと直人は頷く。

「...真由美。」直美は加奈と直人の後ろを見ながら言った。2人は振り向くと、真由美が力なく立っていた。加奈は真由美を抱きしめる。元々痩せ型の体型であった真由美は、更に痩せ細ってしまった事を加奈は肌身に感じた。

「...加奈の声が聞こえたから...。」真由美はぼそりと言いながら、泣いていた。

「うん、うん。」加奈は真由美を抱きしめながら泣いた。2人は暫くして、落ち着きを取り戻し、真由美は直美の隣に座る。

「塚原、安心してくれ。秘密は守る。俺らはギルドと呼ばれる組織に所属している。今回、塚原のお母さんから依頼を受けてここに来た。」直人は言う。

「思い出すのも辛いと思うけど、話してくれない?」加奈は真由美に言う。真由美は直美が話した内容と変わらない話をした。

「ありがとう真由美。」加奈は真由美の隣にいき、再び抱きしめた。

「塚原、1つ教えてくれ。女性の呻き声が聞こえた時、そこに女性の姿はあったのか?」直人は聞く。真由美はコクリと頷く。

「そうか...。ありがとう。お母さん、」直人は真由美に礼を言うと直美に視線を移す。

「何故警察に任せておかずに、ギルドへ依頼したのですか?」直人は聞く。

「...最初は警察にお任せするつもりでした。でも、真由美のお見舞いに行った時、偶然警察の方が廊下で話しているのを聞いてしまったんです。」直美は言う。


真由美の入院していた病院の廊下で、2人の警察官が話しているのを、直美は偶然にも耳にしてしまった。

「かわいそうになぁ。あの娘立ち直れるといいが。」

「M線に痴漢が多いのと関係あるのかね?」

「さぁ、わからないな。ただ、あの辺りは人通りも少ないし、夜になると女性には危険だよ。」

「犯人は地の利がある人間なんだろうね。」

「だとすると、目星はつきそうだがな。これ程、近隣で立て続けに起きてるのに捕まらない理由はなんだろうな?」

「警察内部の犯行だったりしてな。」

「それこそ大問題だろう。だが、その線もあるよな。これ程までに掻い潜るんだからな。」

「何にせよ、あの娘は運が悪かった。いや、これ程ニュースにもなってる場所を通る、あの娘の神経もわからんがな。」

「それは言えてるな。最近のJKは危機感なさすぎだな。」

「違いない。」男達は笑った。直美は廊下の曲がり角で歯を食い縛りながら、警察には任せておけないと心底思った。


「ヒドい!」加奈は真由美を抱きしめながら憤慨する。

「娘の神経がわからない?娘がこんなに苦しんでいるのに、何故笑っていられるの?貴方達が捜査に全力を尽くさないのを、娘に危機感がないと笑って済ませるの?無神経なのは、貴方達じゃない?そんな想いが頭を駆け巡りました。私には、どうしても警察の言った言葉が許せなかった。警察以外の組織はないのか、ネットを調べまくりました。そこでギルドの事を知りました。」直美は言う。

「...。」加奈は黙って聞く。

「交渉人Sからギルドの概要は伺っているかと思います。」直人は直美に確認する。直美は頷く。

「私達は皆、妖しの能力をその身に持つ者達の集まりです。常人では想像も出来ない様な能力を持つ者もいます。そして、ターゲットが人であるならば、100%成功いたします。」直人は直美と真由美を見る。

「ですが、ターゲットが人外の場合、その成功率はハッキリ言って半分以下です。娘さんを含めて、6名の被害者を襲った手口、そして先程の娘さんの話を合わせると、私の結論では、この犯人は人外である可能性が高い。」直人は言うと、直美は口を手で押さえる。真由美はガタガタと震え出す。加奈はそんな真由美を見かねて抱きしめる。

「それを踏まえた上で、今一度お伺いいたします。依頼、なされますか?」直人は直美と真由美を交互に見る。直美は震える娘を見る。そして意を決した様に直人に向き直る。

「お願いいたします。やはり、娘にこんな想いをさせた犯人を、私は許せません。」直美は言う。加奈と直人は顔を見合わせて、

「ご依頼、慎んで承ります。」と2人同時に言うと深々と頭を下げた。

「...加奈...。」真由美は加奈を不安気な表情で見る。

「真由美、大丈夫。私達に任せて。コレでも私達、バディを組んで以来、達成出来なかった依頼はないわ。」加奈は真顔で言う。直人も頷く。

「あの?」直美は2人に話しかける。加奈と直人は直美を見る。

「報酬、少ないです...よね?すみません。相場もわからないままアプリで依頼してしまって。」直美は謝る。直人も加奈も黙っている。

「命をかけるんですものね。今はコレしか用意出来ませんが、必ず見合っ」直美の言葉を直人は手で遮った。

「お母さん十分です。俺達は依頼を承った。言い方は悪いかも知れませんが、俺達ギルド員にも依頼を選択する権利はある。気に入らなければ受けなければ良いだけの事です。」直人は言う。

「そして私と直人は依頼を承った。私と直人は金額の大小で依頼を受けません。その背景に潜む想いを汲み取り、依頼を受けるか判断しようと直人と決めています。」加奈も言う。

「ありがとうございます。」直美は深々と頭を下げた。

「それでは、俺達はコレで失礼します。」直人は言うと席を立つ。

「真由美。またね。」加奈は真由美に言う。真由美は頷いた。





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