第508話 冨岡の手足

 荷物の多さから、一人では運びきれないと考えた冨岡は、ともかく身一つで鏡を通り、異世界に戻る。

 いつも通りの暗い路地に、実家のような安心感すら覚えた。


「さて、どうしようか」


 そう呟きながら、荷物の運搬方法を考える。

 美作にリアカーやバイクを十台ずつ用意してもらってはいるが、当然一人では運べない。

 かといって、自分が異世界から荷物を運び入れていることを明かすことも、女神から禁じられている。

 いくらなんでも、路地から大量の荷物が運ばれてきたら、誰だって不審に思うはずだ。

 誰かの助力が必要なのは明らかである。


「ドロフやメレブは、おそらくフィーネちゃんが治療してくれているはずだけど、すぐに動けるはずがないし・・・・・・」


 冨岡が声をかけた時、違和感があっても深掘りせずに手伝ってくれる人材はそれほど多くない。そう冨岡は考えていた。

 困り顔をしながらも、冨岡はひとまず路地から通りの方に足を向ける。

 一歩一歩進みながら、思考を巡らせた。

 美作から買い付けた荷物を持ってこれてはいないが、ポケットの中に金製品がいくつか入っている。


「そっか、何の事情も知らない人を雇って運んで貰えば、特に怪しまれもしない」


 一案として、通りにいるだろう商人を雇うと考えてみるが、それでは安全性が担保されない。荷物を持ち逃げされる可能性はあるだろう。

 先のことを考えず、大量に買い付けをしてしまった事実を自省しつつ、通りまで出た冨岡に一人の女性が声をかけてきた。


「お待ちしておりました、トミオカ様」


 俯き気味で考え事をしていた冨岡は、声に驚いて顔を上げる。するとそこには、端正な顔つきで十名ほどの兵士を連れたアリリシャが立っていた。


「ア、アリリシャさん? どうしてここに?」


 状況が理解できず、純粋な疑問を口にするとアリリシャは軽く頭を下げて、目を合わせないよう疑問に答えた。おそらく、目上の者に報告する際のマナーなのだろう。


「ノノノカ様から命を受けまして。一部隊を連れ、ここで待つように、と。こちらにいるのは、全て私の部下でございます」

「ノノノカさんが・・・・・・」


 ベルソード家当主、冒険者ギルドを束ねるノノノカはこの街で起きたことをほとんど把握している。貴族街や貧民街など、一部の不可侵領域においては知り得ないこともあるが、庶民街での情報ならば筒抜けだ。

 事実、彼女は冨岡が現れた場所も知っていた。そしてノノノカは冨岡が異世界転移者であることを知っている。それを秘密にしたいことも。

 さらにアリリシャは言葉を続ける。


「ノノノカ様からの命令は二つです。『この路地の前で部隊を連れて待機すること』もう一つは、『何も聞かず、トミオカ様の指示に従うこと。その一切を他言しないこと』・・・・・・我々はトミオカ様の手足。さぁ、ご指示を」

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