第507話 灰色の紫煙
引越しでもしているのか、と思うほどの荷物が、冨岡の目の前に積まれていた。
これは『全てを終わらせる』ための資材。
「本当にありがとうございます。これさえあれば・・・・・・」
冨岡が礼を言うと、美作は胸ポケットからタバコを取り出して火を着けた。
「ふーっ、俺に非合法だって言うアンタの方が、よっぽど恐ろしい顔してんぜ? アンタに比べりゃあ、俺なんてタバコみたいなもんさ。歓迎されるようなもんじゃあないが、禁止されてるもんでもない。グレーの中でも、アンタの方が黒に近い」
「真っ黒なものと戦おうとしてるんですから、そりゃ黒くもなりますよ。大切なものを守るために、戦わなきゃならないんです」
巨大なものに踏み潰されそうになった時、どうすればいいのか。より大きくなればいい。単純明快な答えだ。相手が石の斧で攻撃してくるのならば、鉄の剣で戦えばいい。鉄の剣で斬りかかってくるのなら、銃を撃てばいい。相手よりも大きく、強ければ負けることはない。
そう考える冨岡に対し、美作は煙を吐いた。
「アンタが何をしようとしているのか、想像できないワケじゃあないし、余計なお節介だとは思うけどよ。戦争ってのは完勝すべきじゃない。勝った上で相手を立てなきゃ、次の戦争が生まれる。そういうもんだぜ?」
「次の戦争? でも、とにかく勝たないと守りたいものも守れないじゃないですか」
「何事も白黒じゃないってことさ。世の中は、白黒でもなけりゃ、右左でも、上下でもない。その中間にグレーがあって、中央があって、中段がある。その中間を作り出すために戦う。そうしなけりゃ、次の犠牲が出るだけなんだよ。圧倒的な力でねじ伏せるのは、そりゃ簡単だ。象が蟻を踏み潰すのに、大した労力は使わない。けどな、蟻ってのは象より数が多いんだ。踏み潰し続ければ、いずれ文字通り足元を掬われる」
美作は、笑うでも怒るでもなく、無色の感情で言う。それが何を意味するのか、今の冨岡にはわからなかった。
王弟派の貴族が、圧倒的権力と武力で手段を選ばずに、攻撃を仕掛けてきている。相手の方が『象』だ。ならば蟻である自分たちが、力をつけて足元を掬ってやらなければならない。
そして、自分ならそれができる、と冨岡は考えていた。手段を選ばずに、相手を潰すことができる。
「・・・・・・覚えておきます」
美作の言葉に対し、そう返答すると、冨岡は荷物を異世界へと運ぶ準備を始めた。
「ははっ、そりゃそうだ」
紫煙を吐きながら美作が笑う。
「今はわかんねぇよな。盛者必衰の盛者はすぐに変わる。真に勝者たり得るのは誰か。王手をかけた時に、気づけりゃあいい。じゃあ、支払いの方は頼むぜ、冨岡さんよ」
飄々とした態度を崩さないまま、美作は携帯灰皿に吸い殻を捨てて、自分の車に向かっていった。
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