第504話 戦いの狭間でティータイム

 ドロフはレボルが、メレブはアリリシャが背負い、ノノノカを先頭にして学園に戻った面々は、とにかく屋台の中で冨岡の帰りを待つことにした。

 彼が何をしようとしているのか、誰も想像できない状況。


「一体、トミオカさんは何をしようとしているんでしょうか」


 不安そうにアメリアが呟いた。

 もしかすると冨岡が貴族街に乗り込むかもしれない、と彼女は胸を押さえる。

 庶民が単身で貴族に喧嘩を売れば、無傷では済まない。どれほど希望を持って想像したとしても、投獄くらいで終わるはずがない。どうあっても命はないだろう。

 冨岡の優しさや行動力を近くで見てきたアメリアにとっては、当然の心配だ。

 同じ立場であるレボルも、落ち着かない様子で体を左右に揺らす。


「せめて私だけでも連れて行ってくれれば・・・・・・」


 冨岡の性格を知っていれば知っているほど、不安になる状況だった。

 しかし、冨岡の身内であるノノノカは、どっかりと椅子に座り頬杖すらついていた。


「アメリアもレボルも落ち着かんか。待っていると決めたのならば、待つしかあるまいよ」

「ノノノカ様、でも・・・・・・」


 アメリアが言葉を返す。するとノノノカは、『仕方がない』といった具合に息を吐いた。


「これまでお前たちの周囲で起きたことについては、大抵知っておる。ヒロヤが他人のために大きな行動を取ることも、じゃ。その行動は無理なものにも見えたじゃろう。しかし、ヒロヤはヒロヤなりに勝算を持って行動しておるよ。今、一人で貴族街に乗り込むことに勝算はない。レボルよ、お主には『どこまでも付き合ってくれ』と言っておったのじゃろう? それならば、お前を置いていくはずがない。ワシの孫は約束を違えん。少なくともワシはそう信じておる。お前は違うのか?」


 問いを向けられたレボルは、先ほどまでの揺れが消え去り、静止していた。


「わ、私も信じています」

「それならば、じっとしておれ。規則的に揺られると、何故か眠くなるんじゃ。アメリアもじゃぞ」


 ノノノカの言葉の矛先がアメリアに向く。


「完全な平穏などどこにもない世界じゃ。男が戦うと決めた時、女ができることは二つ。共に戦う力を身につけ戦場で背中を守るか、どこまでも信じて待ち続けるか、じゃ。共に戦うよりも待つ方が辛い。じゃがな、女にはその強さがある。堪え性のない男よりも女の方が強いんじゃ。待って、待って、待って、帰ってきたら笑って泣いてやればいい。お前ならば分かるな? アメリアよ」

「・・・・・・はい!」

「さすがはワシの孫が見そめた女じゃ。納得できたのなら、茶でも淹れてくれんか? 喉が渇いて仕方がない」


 周囲の動揺を防ぐため、冷静でい続けるノノノカだが、彼女もまた冨岡の身を案じていた。心の中では『馬鹿な真似はせんでくれよ』と祈りのような念を送り続けている。

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