第502話 人を変える力
料理人の面が強く印象づけられているレボルだが、彼は現役の冒険者でもある。流石というべきかリオを背負って走ってきたのに、息を切らす様子はなかった。そんなレボルの背中を追ってきたアメリアも、様々な労働をしてきたためか、最近の食生活のおかげで栄養状態がいいためか、軽く息を整えただけで呼吸は落ち着いていた。
「フィーネは大丈夫でしょうか」
アメリアが最初に放った言葉は、この国最強の女性に連れられていったフィーネへの心配である。
保護者の声を聞いたフィーネは、ちょうどメレブの火傷を治しきると、嬉しそうに振り返った。
「うん! フィーネは大丈夫だよ」
「良かった。ノノノカ様があまりにもらんぼ・・・・・・速かったので」
フィーネを背負い、建物を破壊しつつ、最短距離で進んできたノノノカ。そんな様子に不安を抱いていたのだろう。当然だ。
アメリアの吐露を聞いたノノノカは、何も気にしていない様子で笑う。
「心配するな、アメリアよ。ワシは卵を握ったまま、盗賊団百人を叩きのめしたことがあるんじゃ。卵を潰さぬまま、な」
隣にいたアリリシャは、苦笑を噛み殺した顔で「二百人だったはずですが」と呟いた。
部下の言葉など聞こえない様子のノノノカは、改めて重傷者二名の回復を終えたフィーネに視線をやる。
「それにしても、凄まじいものじゃな、フィーネの回復魔法は。いや、回復魔法の枠を超えておった。あれでは、再生じゃ」
ノノノカの発言を聞いたアメリアは、何が行われたのかを即座に理解する。
「トミオカさんがフィーネを呼んだのは、この為だったんですね。ドロフさんとメレブさんが大怪我を負って、治療するために」
「そのようじゃ。当たり前じゃが、アメリアはフィーネの能力を知っておったんじゃな?」
「はい。一度しか見たことはないのですが、トミオカさんの傷を一瞬で・・・・・・やっぱりフィーネは・・・・・・」
「ふむ、何か思うところがありそうじゃな。まぁ、その話は後じゃ。ともかく、ドロフとメレブが生きておって良かった。いや、死ぬところじゃったが、助かって良かったというべきかの。ワシの見通しが甘かったせいで、すまんことをしてしまったのう」
素直に非を認めるノノノカに、彼女を近くで見てきたアリリシャは驚愕の顔を見せた。
「ノノノカ様が・・・・・・謝罪?」
「おい、聞こえておるぞ、アリリシャ」
「し、失礼しました!」
「大切な孫の部下じゃ。ワシとて責任くらいは感じる。ワシの指示が甘かったのじゃからな」
「い、いえ、ノノノカ様の指示は調査だったはずです。しかし、ドロフ氏及びメレブ氏は貧民街の住民を守ろうと無茶な行動に・・・・・・」
ノノノカの自責を減らそうと、アリリシャが言う。しかし、ベルソード家当主は首を横に振った。
「無粋なことを言うな、アリリシャ。其奴らの行動を予測できんかったワシの甘さじゃよ。過去の情報を見れば、ドロフとメレブは他人のために動くような奴ではなかった。ヒロヤとの出会によって、大きく変わったことを考えるべきじゃったの。我が孫ながら、これほど人を変えるとは」
「・・・・・・本当にですね」
そう答えながらアリリシャは、随分丸くなった自分のボスに関心の視線を向けた。
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