第501話 暴力的なほどの癒し

 ノノノカの問いかけにアリリシャは、冨岡から託された言葉を返す。


「トミオカ様はこうおっしゃっていました。『俺にしてくれたことをこの二人にも』と」

「ふむ、漠然としておるのう。それはフィーネに対しての言葉じゃな?」


 そう言いながらノノノカは、フィーネの手を引いた。


「どうじゃ、フィーネ。ヒロヤが何を言っているのか、お前にはわかるか?」

「うん、わかるよ! 緑の光をバーンってすればいいんでしょ。ドロフおじちゃんと、メレブおじちゃんの怪我を消すよ、フィーネ」


 フィーネは元気に言い、ドロフとメレブに歩み寄る。大怪我をした大人を前にしているというのに、フィーネには一切の怯えが感じられない。

 悲しい話だが、幼い彼女は様々な苦しみを経験してきている。冨岡よりもこういった状況に対する耐性はあるのかもしれない。


「えっと、トミオカさんの時と同じように緑の光を・・・・・・」


 小さな手をドロフに翳す。何かを考えてドロフから選んだのではなく、フィーネの本能がより重症であるドロフを選ばせたのだった。

 フィーネの手先から溢れ出した緑の暖かな光は、一気にドロフを包み込む。映像を逆再生でもしているかのように、ドロフの腹の傷は急速に閉じていった。

 ノノノカとアリリシャは何度も回復魔法を見てきたし、実際に受けたこともある。けれど、目の前で起きている規格外の回復魔法に、言葉を失ってしまった。


「うーーーーーー!」


 独特な声を上げながら、回復魔法を発動するフィーネ。

 その光景にアリリシャは思わず「聖女様・・・・・・」と呟いてしまう。

 

「何を言っておるのじゃ、アリリシャ。聖女様だなんて」

「で、でも、ノノノカ様。これはもう・・・・・・聖女様のソレじゃないですか」

「そうじゃのう。凄まじい回復魔法じゃ。あれだけの傷がこんな短時間で。暴力的なほどの癒しじゃ。この能力があれば『死以外』の全てが治る。少なくともそのように見えるのう」


 フィーネの回復魔法を目の当たりにしたノノノカの胸には、驚きと不安が宿る。

 戦場にフィーネが一人いるだけで、戦況は大きく変わるだろう。戦闘不能になったはずの兵士が、再び立ち上がり復帰する。まるで『不死の軍団』でも相手にしているかのように思わせられる。

 回復魔法が『最強の攻撃魔法』に変化するのだ。どのような兵器よりも恐ろしい存在である。

 みるみるうちにドロフの顔色は良くなり、健康的な表情を取り戻した。意識こそないものの、呼吸や脈も正常である。

 ドロフを完治させたフィーネは疲れた様子もなく、メレブにも同じように回復魔法を発動させた。


「連続で発動可能じゃと・・・・・・フィーネは一体・・・・・・」


 流石に驚きを隠せないノノノカが言葉を漏らす。それと同時に、レボルがアメリアとリオを連れて現れた。


「ノノノカ様、遅くなりました」

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