第500話 姉妹のような

 冨岡の中に芽生えた『怒り』は、もう誰にも止められない。

 アリリシャに伝言を残した彼は『この世界から消えた』かのように、姿を消した。ベルソード家の情報網を活用しても、とある路地裏までしか足跡を追うことができなかった。

 一体、冨岡が何をするのか。正しく推測できる者などどこにもいない。

 アリリシャは冨岡から託された伝言を受け、意識を失い死を待つばかりのドロフを、メレブが倒れていた場所まで運んだ。

 学園にフィーネたちを呼びに行ったレボルは、まだ戻ってきていない。


「これじゃあ、重負傷者を二人集めただけ・・・・・・どれほど卓越した回復魔法でも、この傷では・・・・・・」


 アリリシャはドロフとメレブを眺めながら、最悪の結末を想像せずにはいられなかった。

 この二人が助かる未来は想像できない。

 それでもこの場を任されたからには、彼女にとってドロフとメレブの警護は優先すべき任務。気を抜かず、周囲を警戒していた。

 そんな彼女の耳に、何かが破裂するような音が届いた。パンッという弾けるような音の直後、木材や石材が崩れる振動。

 アリリシャの警戒は最高レベルに引き上げられた。


「まさか、戦闘範囲がここまで広がって・・・・・・」


 剣を抜き、音の方向に目をやるアリリシャ。

 それと同時に、目の前にあった建物が吹き飛び、土煙と共に人影が現れた。


「おう、アリリシャ。ドラゴンでも迎え撃つような顔をしておるのう」


 その言葉を聞いた瞬間、アリリシャは呆気にとられ、ポカンと口を開く。建物を破壊して現れたのは、自分の上に立つ最高権力者ノノノカ・ベルソードその人だったのである。


「ノ、ノノノカ様?」

「ノが一つ多いぞ、アリリシャよ」


 よく見ると、ノノノカはその小さな背中にフィーネを乗せていた。


「まさかノノノカ様、その子を背負ってここまで? しかも最短距離でたどり着くために建物を破壊してきた、と?」

「おお、よくわかったな、アリリシャよ。切迫した状況だと判断し、最適な方法を取ったまでじゃ。のう、フィーネ」


 ノノノカとフィーネは、まるで姉妹の様にも見える。それくらいの体格差しかない。

 声をかけられたフィーネは、嬉しそうに微笑んだ。


「バビューンってしてて、ドーンってなって面白かった!」

「ふむ、なかなか肝が据わっておる。将来が楽しみな子じゃの」


 二人して呑気な表情を浮かべている。

 警戒心を高めていたアリリシャとしては、動揺を隠しきれない。


「そんな子を背負って危険なことを・・・・・・ノノノカ様、破損した住居などの補償は一体」

「金でどうにでもなるようなものなど、今はどうでも良い。孫がワシを頼っておるのじゃ。それよりも優先すべきことはない。それより、フィーネを連れてきたがどうすれば良いのじゃ?」

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