第499話 ブチギレた
そのままドロフは体から力が抜け落ち、目を閉じる。即座に冨岡が脈や鼓動を確認するが、生命反応は消えていない。
「ドロフ!」
意識が飛びそうなほど感情的になった冨岡は、実際に意識を失ったドロフの体を地面に寝かせる。
そのまま立ち上がると、およそ人に向けてはいけないような怒りの表情を浮かべ、アリリシャに顔を向けた。
「アリリシャさん、お願いがあります」
「は、はい、何でしょうか?」
決してアリリシャに対して怒っているわけではない。けれど、先ほどまで弱々しい印象しかなかった冨岡が、感情的になっているのを見て、彼女は驚いていた。
そんなアリリシャに対し、『お願い』を続ける。
「大変だとは思いますが、ドロフを背負って、メレブの所に行ってもらえますか。同じ場所にいれば、フィーネちゃんが何とかしてくれるはずです。そしてフィーネちゃんにはこう伝えてください。『俺にしてくれたことをこの二人にも』って」
「ですが、トミオカ様・・・・・・私にはトミオカ様をお守りするという任務があります。それは何よりも優先させるべき事項でありまして、極端にいえば私の命よりも。ですので、この場にトミオカ様を残して離れるわけには」
「大丈夫です。俺もこの場所から離れるので」
冨岡の答えを聞いたアリリシャは、意外そうに目を見開く。彼女は戦士である。そのため仲間が傷つけられ激怒した者を、何度か見たことがあった。大抵の場合、怒りに身を任せ戦場に向かっていく。
けれど冨岡はそうではなかった。
「この場所から離れるって、一体どちらに?」
そもそもドロフとメレブを回収できれば、貧民街に留まる理由などないはずだ。気にかけるべきブルーノ、アレックス親子もミルコの工房にいるはずなので、二人に危険はない。貧民街の住民たちを憂う心はあるが、冨岡一人の力でどうにかできる様な状況じゃない。
だが、わざわざ離れるという宣言をしてまで冨岡が何をするのか。事情を知らないアリリシャでも気になるものである。
彼女に問いかけられた冨岡は、奥歯をギリギリと噛み締め、力強く言い放った。
「学園の未来を無茶苦茶にしたことも、キュルケース家のことも、ローズを悲しませたことも、子どもたちの安全を確保できないことも、ドロフとメレブのことも、俺は許せない。こんな気持ちになったのは初めてですけど、多分俺は『ブチギレた』んですよ。もうキレた! 相手が手段を選ばないなら、俺も手段を選ばない。何もかもぶっ壊してやる! 少しの時間、ここから離れるので、ノノノカさんにこう伝えてください。『俺がいない間、学園を守ってください』って。すぐに戻ってきますから!」
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