第493話 冨岡の剣
ノノノカは冨岡の心情と心境を察し、欲しているであろう言葉をかける。
想像しただけで身震いを覚える状況。
戦うためだけに訓練を積んだ兵士たちと、生きていくために全力を尽すだろう貧民街の住民たち。必死と決死がぶつかり合う場所に、冨岡は向かわなければならない。仲間を助けるために。
当然、冒険者ギルドに依頼し、待っていれば安全だ。しかし、それでは納得できない。
自分だけ安全圏で待っているのは、冨岡自身の信念に背く行為である。自分自身に嘘をつかないため、冨岡は行動を決意した。
「ありがとうございます、ノノノカさん」
そう冨岡が礼を言うと、その背後で一人の男が、腑に落ちないという表情を浮かべる。
「まさかとは思いますが、私を置いていこうなどと考えてはいませんよね?」
「レボルさん」
冨岡は、手を挙げる勢いで声をかけてきたレボルの名を呼んだ。いつの間にか彼は屋台に置いていた剣を腰に携え、戦いの準備を終わらせている。
「トミオカさん、私はあなたに雇われた護衛ですよ。あなたの剣であり、盾なんです」
レボルの主張や心意気はありがたい。彼は冨岡にとって、最も信頼を置く人物の一人だ。だからこそ、学園の護衛を任せようと考えていた。
「レボルさん、でも」
「でも、なんですか? 何が言いたいのか、大体わかりますけど、死地に持っていかない剣などありましょうか? 剣は飾るものではないのです」
言葉を聞く限り、レボルの意思は固い。現在の貧民街が、どれほど危険かわかっているからこその言葉だった。
もちろん、冨岡はそれをわかっている。レボルの実力も過小評価していないつもりだ。その上で、自分の都合でレボルを危険な場所に連れて行きたくない、と思ったのである。
視線を交える二人。
その間に、背の低いノノノカがジャンプで割り込んだ。高い身体能力だからこその跳躍力に驚いた冨岡が息を呑むと、彼女は微笑む。
「ヒロヤ、お前の負けじゃ。男が戦うと言った時点で、言葉を飲むことはない。レボルの意思を尊重してやれ。それが主人たる器じゃないかの。学園にはワシが残る」
「ノノノカさん・・・・・・」
「心配するな。ベルソード家本邸の異名は『要塞』じゃ。施設ではない、ワシがおるから『要塞』なのじゃ。ワシさえ居れば、無敵の要塞となる」
ノノノカの強さを目の当たりにしている冨岡に、異論などあるはずがなかった。
数々の優しさと意思に支えられ、貧民街に向かう。
その背後を守るのは、レボルとアリリシャ。ノノノカ曰く、アリリシャはまだ若いが、剣筋は一流だとか。冨岡がベルソード家を継がなかった場合、アリリシャに任せてもいいと考えているほどらしい。
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