第490話 ホイップクリーム

 冨岡の中にずっと小さな疑問が残っていた。

 いや、もしかするとそうかもしれない、という答えはあったが、確信できず不思議な気持ちだけが存在している。

 どうしてノノノカが手助けをしてくれるのか、ということだ。

 祖母と孫である可能性は状況的に見てかなり高い。けれど確証はない。それでもノノノカは冨岡を孫だと言い、孫のためならできる限り助力すると言ってくれた。

 もう彼女の中で自分は孫なのだ、と安心感を覚える。


「ありがとうございます、ノノノカさん」


 照れくさい気持ちを抱きながら、冨岡は言葉を続けた。


「それじゃあ、長生きしてもらわないといけませんね。そういえば、ノノノカさんって何歳なんで・・・・・・」

「ヒロヤ? 教えておかねばならんことがあるな。女性に年齢を尋ねてはならん。いいか、絶対にじゃ。わかるな?」

「・・・・・・はい」


 孫でも踏み越えてはならぬ線があるようだ。

 昼食は目的通り、全員の心をほぐし、溢れていた緊張感はサンドウィッチと一緒になくなる。

 アメリアもレボルもサンドウィッチを気に入ったようで、屋台で販売しようという話にもなった。明るい未来の話ができるのは、現在を乗り越える活力があるということ。

 食の素晴らしさを再確認した冨岡。

 特に評判が良かったのは、甘いサンドウィッチの二つだ。


「屋台で売るならどれがいいですか?」


 そう冨岡が全員に聞いた時、アメリアとフィーネ、ノノノカはフルーツサンド。レボルとリオはあんホイップサンドを選んでいた。

 こちらの世界には、甘味が極端に少ない。手の込んだ菓子は貴族や大商人の口にしか入らないので、庶民が食べられるのは果実くらいだ。

 甘味は文字通り甘い甘い誘惑。国を揺るがすほどの美女を『傾国』と呼ぶが、甘味も『傾国』に並べられるほどのものだとノノノカは言う。

 

「あの白いソースのような甘味はたまらんな。果実の酸味と合わせることで、何倍にも美味くなる」


 ノノノカの感想を聞いた冨岡は、嬉しそうに微笑んだ。


「ホイップクリームですね。パンに塗るだけでも美味しいですよ」

「そう、それじゃ! パンに挟んであっただろう。それが良い。甘味でありながら食事として成り立つものじゃ。昼に食べるものとしては、最高じゃの」

「あー、そっか。簡単な料理で空腹も満たされる。貧民街で配るのにもいいかもしれませんね」


 彼女との会話で貧民街のことを思い出した冨岡は、ドロフとメレブの顔を思い浮かべる。


「大丈夫かな、ドロフとメレブ」

「心配せんでも、もうすぐ帰ってくるじゃろう。危険なことはせんように言いつけておいたからの。貧民街の外には、ワシの手の者を待機させておる。何かあればすぐに・・・・・・」

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