第488話 青空の昼食会
皮肉なことに今日は快晴である。
一日の始まり方としては最悪だったし、内容も今のところ最悪。王弟派の貴族たちが冨岡を含むキュルケース家の周囲に対して、手段を選ばぬ攻撃を仕掛けている。
そんな時でも陽の光は心地よい。
屋台の隣に人数分の椅子と机を二つ出し、紅茶とサンドウィッチを並べれば、ピクニックのようでウキウキしてしまうのは仕方がないだろう。
「わぁ、美味しそう!」
学園から一人で駆けてきたフィーネが、嬉しそうに椅子に飛び乗った。
幼い彼女の体重でも、勢いよく乗れば椅子は傾く。冨岡は慌てて、グラグラと不安定に揺れる椅子に手を伸ばした。
「あ、危ないよ、フィーネちゃん」
「へへへ、お腹すいちゃったから」
「そうだよね、すぐにご飯にするから。あれ、アメリアさんたちは?」
「ほら、もう来てるよ」
どうやらフィーネは昼食が待ちきれず、先んじて走ってきたらしい。
学園からアメリアとノノノカ、リオが歩いてきていた。これで今学園にいる者は全員揃った。
冨岡は真っ青な空にも負けないほど、暖かな表情を浮かべる。
「さぁ、座ってください。昼食にしましょう!」
冨岡、アメリア、ノノノカ、レボル、フィーネ、リオ。全員が席につき、青空の下の昼食会が始まった。
「ヒロヤ、これはパンか?」
ノノノカはサンドウィッチを見ながら問いかける。
こちらの世界では、パンの扱いが日本とは違う。そもそも種類が少なく、硬いパンしかなかったため、スープに浸して食べるのは一般的だった。冨岡とメルルズパンによって柔らかなパンが広まりつつあるが、それでもサンドウィッチのようなものは見慣れないもの。
もちろん、アメリアやレボルも物珍しい目をしていた。
「ハンバーガーに似ていますが、違うものですね」
レボルが言う。
確かにパンに具材を挟むという点は同じ。そもそもハンバーガーはサンドウィッチの一つだ。
サンドウィッチの中にハンバーガーというカテゴリーが存在する。
「似たようなものですよ」
冨岡はそう答えてから、紅茶を淹れる。その間にも子どもたちの目から『早く食べたい』という意思が伝わってきていた。
「情報じゃあ、お腹は膨れませんよね。話はこれくらいにして食べましょう」
言いながら冨岡は両手を合わせる。アメリアやレボル、子どもたちにはお馴染みな作法だ。
ノノノカは不思議そうにしながらもそれに倣い、次の言葉を待った。
「いただきます!」
「いっただっきまーす」
「いただきます」
「いただきます」
「いただきます」
「い、いただきます?」
最初に手を伸ばしたのはフィーネとリオだった。フィーネがカツサンド。リオがタマゴサンド。
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