第486話 元気の出るメニュー

 緊迫した状況と張り詰めた空気。肺が押し潰されそうな緊張感の中、年長者であるノノノカが明るい声色でこう提案する。


「キュルケース公爵のことを考えれば、そんな気持ちになれんじゃろうがの。全員が暗い顔をしていたとて、何かが好転するわけでもあるまい。子どもたちにも窮屈な思いをさせてはならんし、食事にでもせんか?」


 そういえばもう昼過ぎだった。確かに積極的に食事をしようという気分にはなれなかったが、食事を摂らずにいて良いことなど何もない。

 それに子どもは、想像以上に大人の顔色を伺っているものだ。フィーネやリオは、既に不穏な空気は感じ取っているだろう。その上、大人たちが小難しい顔をしていれば、苦しい思いをさせてしまうかもしれない。

 感情とは連鎖する性質を持っている。

 今、冨岡ができることは、異世界から持ち込んだ美食で人を笑顔にすることだった。


「そう・・・・・・ですよね。俺たちが暗い顔してちゃ、フィーネちゃんやリオくんが不安になってしまいますよね。ノノノカさんの言うとおりだ。こういう時こそ、美味しいものを食べて元気出さないと!」

「おお、いいぞヒロヤ。何か作れ。食ったものを血肉にし、人は生きて笑うのじゃ。良い結果が笑顔を生むのではない。笑顔が良い結果を生む。そういうものじゃろう」


 ノノノカに背中を押され、冨岡は椅子から立ち上がる。

 

「じゃあ、とびっきり美味しいものを作ります!」


 今日のメニューは『切迫した状況でも皆の元気が出る料理』だ。

 冨岡が屋台にある食材を確認し始めると、アメリアとノノノカは子どもたちの様子を見るため、学園に向かった。

 一人になった冨岡は、深呼吸をして酸素を取り入れてから、献立を考える。


「元気の出るメニューか。カレーは前にも作ったし、他の何かがいいよな。昼食だしがっつりしすぎていても微妙か。食べやすくて元気が出るメニュー・・・・・・疲労回復といえば豚肉かな」


 豚肉には疲労回復に欠かせないビタミンが豊富に含まれている。疲れた時には豚肉を食べるといい。


「卵って選択肢もあるな」


 卵は完全栄養食ともいわれている。筋肉の疲労を回復する必須アミノ酸のバランスに優れ、良質なタンパク質を含んでいる食材だ。


「ミネラル豊富な乳製品もいいし、辛いものは食欲を増進させる。ははっ、そう考えるとやっぱり食事は大切だな。食事にしようって言ってくれたノノノカさんに感謝だ。大切なのは食べて、お腹を満たすこと。まずは食べないと元気なんて出ないよな。よし、決めた!」


 冨岡はそう言ってから、食パンの在庫を全て調理台に置く。


「いろんなサンドウィッチを作ろう!」

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