第475話 シャドウ

「どちらにせよ」


 そうノノノカは話を続けた。


「冒険者ギルドでも、新たな情報を得るために動いている。だが王弟派、つまり保守派に属する貴族がどの程度いるのかは、そう簡単に掴めんものじゃ。名簿があるわけではないからの。人の心の中にある情報は、冒険者ギルドといえど、な」


 冒険者ギルドは独自の情報収集方法を確立している。わざわざノノノカの口から語るようなことはないが、隠密部隊『シャドウ』を組織し、ベルソード家が管理していた。

 シャドウには、元冒険者が数名所属。少数精鋭の形を取り、メンバーの全員が既に人間らしい生き方を諦めている。

 そもそもノノノカがシャドウを組織した理由は、救済であった。冒険者ギルドは巨大な組織であり、様々な人間が所属している。そうなると、罪を犯し除名または処刑される者も少なからずいるものだ。除名であっても、その者の未来はない。まともな職業に就くことは望めず、人からは疎まれる。

 当然、罪を犯したのだから罰は受けるべきだ。しかし、その中には『情状酌量の余地』を持つ者もいる。例えば、幼い娘を理不尽かつ無惨に殺された父が行った復讐行為。相手は歪んだ小児性愛を持つ有力な商人であった。公表されてはいないが、被害者数は十を超える。

 相手がどれだけ非道な罪人であっても、父に正義があっても、殺害は殺害だ。

 有力な商人となれば貴族との繋がりも強く、小児性愛によって起こした事件は公表されず、街を繁栄させた商人として弔われる。そんな相手を冒険者ギルド所属の冒険者が殺した。その事実だけが存在してしまう。

 冒険者ギルドとしては処罰を下さなければならない。

 そこでノノノカは表向きに処分を行い、隠密部隊として生きることを勧めた。そのためのシャドウである。

 死人同然であるシャドウは、生きている人間よりも深く潜り込むことが可能だ。貴族や有力な商人の周囲で影のように潜み、耳を澄ませる。影とはどこにでも存在し、いつでも見ているものだ。

 それでも得られない情報が二つある。一つは人の心の中にしかない情報。そしてもう一つ。それを得るために、ドロフとメレブが動き始めた。

 

「あれ、アメリアさん。そういえば、ドロフとメレブはどこに?」


 冨岡が問いかけると、アメリアはノノノカに視線をやる。


「あの二人ならば、ワシの指示で動いておる。様々なことを経ているとはいえ、まぁ、ワシの管理下におった事もあるし、今はヒロヤに忠誠を誓う部下じゃ。大役をな、与えてやった」

 

 ノノノカにそう言われた冨岡は「大役?」と首を傾げた。

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