第474話 象徴の反目

 アメリアの疑問はもっともである。現状、ドルマリン男爵の死に不審な点があるのはわかった。そしてその死をきっかけに、貴族たちの中で怪しい動きが見られるようになったことも。

 では、その死にどんな意味があり、どんな理由があるのだろう。そう思うのは当然だ。

 しかしながら、ドルマリン男爵が亡くなる前後の行動は不明なことが多い。殺された理由もわからないままだった。

 ノノノカは残念そうに首を横に振る。


「残念ながら、な。じゃが、推測することはできるぞ。ヒロヤ、仮に貴族たちが共謀しドルマリン男爵を殺した考えてみよ。元々貴族たちが取り立てたドルマリン男爵を、じゃ。何があれば殺したいと考える?」


 問いかけられた冨岡は、自分の口元を手で覆いながら、例え話に思考を委ねてみた。

 そもそも貴族たちはドルマリンを利用するため、男爵に取り立てるよう動いている。そして計画通り、ドルマリンは男爵位を与えられた。


「ドルマリン男爵を自分たちの派閥で囲い、英雄としての名声を利用して、市民の支持を得る。いや、でも階級制度がある中で、市民たちの支持なんてそれほど重要なんでしょうか。選挙があるわけでもないのに」


 冨岡が呟くと、ノノノカは孫の思考をフォローするべく言葉を挟む。


「市民たちが結託すれば、国そのものが危うくなる。いくら愚か者とはいえ、自分たちの箱を壊すような真似はせんよ。階級制度は市民を守るために必要なもの。英雄の存在を利用し、そう思わせる策だったのじゃろう。いつの世も、階級制度に不満を持つのは下層におる者じゃからの。市民の思想さえ掌握すれば、安泰というわけじゃ。キュルケース公爵が何をしようともな」

「なるほど・・・・・・一種の宗教を作り出すってことですね。英雄教、とでもいえばいいのか。けど、貴族たちの目論見は崩れた・・・・・・ドルマリン男爵は、象徴として扱われることを拒絶したんですね」


 推理を進める冨岡。話を途切れさせないよう、ノノノカは「つまり?」と答えを出すよう促した。


「思い通りにならない象徴は、階級制度の瓦解を進めるかもしれない。だから殺された・・・・・・」

「ワシも同じ考えじゃ。貴族たちの目的は一貫して、階級制度を守ること。ドルマリン男爵の不審死から見えてくる推測も、実際に起こっているキュルケース公爵の拘束もな」


 ノノノカは思考の大切さを知っている。口頭で説明した事実を飲み込ませるよりも、それぞれが思考し、同じ答えに至る方が説得力があるものだ。事実、冨岡とアメリアは見ても聞いてもいない数ヶ月前のことをしっかりと理解できている。

 ここでようやく、冒険者ギルドが『貴族たちの動きに怪しさを感じていた』理由の説明が終わった。そのおかげで推理と行動を進めることが可能になる。

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