第412話 酔い覚まし
偶然にもこの夜、冨岡とアメリアは同時に背中を押され、二人とも自分の気持ちを強く認識した。
その上、二人ともキュルケース家の者によって、である。
だが、その日は宴の進行と片付けがあり、どちらも自分の気持ちを伝える余裕などなかった。
これまで冨岡が関わってきた人々の顔合わせが済み、楽しい宴が終わるとそれぞれ自分の家に帰って行った。
食材の保存量には限りがあるので、余った食材や酒は欲しいと言う人に配り、持って帰らせている。
楽しさや緊張で酒は進み、多くの人に会ったため乾杯が増えて更に進む。いつもより酔いが回った冨岡は、アメリアや子どもたちが寝室に入ったところで、酔い覚ましのために夜の街を歩き始めた。
「一人で出歩いてたら、レボルさんに怒られるんだろうな」
そんなことを呟きながら、いつもの大通りに向かう。
特に目的地があるわけではないが、月が照らしている道を選んで歩いていた。見通しのいい場所ならば、多少襲われる危険性は少ないだろう。
「ここまで歩いてきたし、少しだけ日本に戻るか。もしかすると、美作さんが食材を持ってきてくれているかもしれないし」
元々そんな予定ではなかったが、せっかくここまで出てきたならば、と冨岡は元の世界に戻ってみる。どうせ明日の朝になれば、食材を受け取りに行かなければならない。『ついで』というやつだ。
路地裏にある鏡を通って元の世界に入ると、遠くから車のエンジン音が聞こえてくる。次第に大きくなったエンジン音は、すぐ近くで停止した。
こちらの世界で鏡を置いてある蔵から冨岡が出る。やはりエンジン音は美作だったようで、彼は車から降りるとすぐ、冨岡の方に懐中電灯を向けた。
「おう、アンタか。珍しいな、直接会うなんて」
美作はそう言うと、胸ポケットから煙草を取り出して火をつける。
煙草を吸い始めた美作に近寄ると、冨岡は頭を下げた。
「お久しぶりです、美作さん」
「なんだ、大袈裟だな。もしかして、飲んでるのか」
「まぁ、少し」
「少しって量じゃなかっただろ、アンタが買わせた酒は。当然、一人で飲む量じゃあないし、こんな家に酒を買い込んで、隠居でもしようってか?」
買い出しを依頼している何でも屋の美作は、これまでの購入品をほぼ全て知っている。
食材や酒の量を不思議に思わない方がおかしいくらいだ。
だが、それについて深く言及されたことはない。
軽く誤魔化せば、それ以上踏み込んでこないのだ。
「いろんな人を招いてホームパーティーをしてるんですよ」
「ははっ、パーティーなぁ。あれだけの食材があれば毎日できる。海外のセレブみたいな生活してるんだな」
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