第413話 何でも屋は何でも知っている


 信じているのか、興味がないのか。当たり障りのない返答をする美作。

 こんな山奥であれだけの食材を毎日買い込み、消費できるわけがない。そんなことわかっているはずなのに、美作は追求してこないのだ。

 飄々とした美作の雰囲気は、冨岡にとって心地がいい。まるで兄弟のようにも錯覚してしまう。

 当然だ。冨岡の親代わりだった祖父、源次郎は美作の親代わりでもある。同じ人間に育てられたのだから、兄弟も同然。

 相手の奥にいる源次郎の面影に安心感を覚えるのだろう。

 冨岡にとって、仕事においても精神面においても美作は大切な存在になっていた。


「そういえば、結局毎日俺の仕事を頼んでますけど、他の仕事は大丈夫ですか?」


 冨岡が問いかける。それに対して美作は煙を吐きながら笑った。


「心配すんな、他の仕事なんてそうそうありはしないさ。まぁ、この不景気だしな、高い金払って『何でも屋』に依頼する奴なんて訳アリだろ?」

「いや、それはそれで心配ですって。というか、初めて美作さんに出会った時、この山の地質調査をしてたじゃないですか。あれは真っ当な仕事ですよね?」

「そうでもねぇぜ。この山の開発を進めたいのは木坂建設の専務派・・・・・・地質調査を依頼してきたのは、社長派だ。社内の人材を動かせば専務派にバレるってんで、外部の『何でも屋』を使ったって話さ」


 つまりは、あの時の仕事も訳アリということである。


「専務派と社長派って、同じ会社ですよね。百億なんて大金をポンと出すんですから、大きな仕事でしょうし会社全体で協力した方がいいんじゃないですか? あれ、そもそも開発を進めたい専務派が依頼するならまだしも、社長派が依頼? おかしくないですか?」

「ははっ、随分お人好しなことを言うんだな。優しすぎるぜ」

「今日もそう言われたばかりですけど」


 美作に笑われた冨岡は、ムッとして唇を尖らせた。

 どこにいても『優しすぎる』なんて評価を受けてしまう。それも良い意味ではなく、だ。

 段々と、世間知らずだなんて言われているような気もしてくる。

 そこで冨岡はこう考える。知らないならば知ればいい、と。


「じゃあ、社長派と専務派で分かれて仕事をしている理由はなんですか? 大きな仕事なのに、そんなの協力した方がいいじゃないですか」

「ああ、そうできれば理想だな。だが、人間には欲がある。妬みや嫉みもな。木坂建設は元々、会長のワンマン経営でデカくなった会社なのさ。社長はその息子で、専務は叩き上げ。この専務ってのが中々の狸でね、大きな仕事をして着実に成果を上げ、いずれは社長の地位を狙ってる。社長からすれば、専務の存在は邪魔。そこで足を引っ張るためにこの山の地質を調べ、不都合がないか調べたかったのさ。だが、ボンボンの社長にデータを改竄するほどの度胸はない。何か出れば儲けものってくらいの話だろうぜ。そういうところに儲け話がある、それが何でも屋だよ」

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