第404話 自分の気持ち

 冨岡への好意を口にしたローズは、どこかわざとらしく、まるでアメリアを煽っているように見える。

 硬い殻の中に隠した本心を引き出すように、言葉と目線、表情で攻め立てる。そんな様子だった。

 しかし、アメリアの立場で公爵令嬢に歯向かうことなど出来はしない。


「そ、それは、その・・・・・・トミオカさんも承知の話でしょうか」

「公爵家を継ぐことができるのよ? それに、お父様もトミーのことは気に入っているわ。誰も損はしない話よ。あなたにとっても、そうでしょう?」

「そうではなくて、トミオカさんの気持ちです。失礼を承知で申し上げますが、ローズ様はまだ・・・・・・その」

「子どもだって言いたいの? 年齢なんて大した問題じゃないわ。貴族なら、この歳で婚約者いることも珍しくない。身分差の話はあるでしょうけど、トミーが大商人になれば誰も文句は言わないでしょうしね。そのための助力はするつもりよ」


 ローズは、自分と冨岡の婚姻が不自然ではないことを説明する。

 しかし、アメリアが聞きたいことはそれではない。


「違うんです、ローズ様。本当にトミオカさんがローズ様との婚姻を望んでいて、それが幸せなのだと言うなら、私は心から応援します」

「ふふっ、ありがとう。じゃあ、問題ないのね?」

「ですから・・・・・・トミオカさんが本当にそれを望んでいるのなら、です。私にはトミオカさんが幼いローズ様との婚姻を本気で考えるとは思えないんです。それも利益を求めてなんて・・・・・・トミオカさんはそんな方ではありません。少なくとも私が見てきたトミオカさんは」


 アメリアが奥歯を噛み締めるように言うと、ローズは呆れたようにため息を吐いた。


「随分と青いことを言うのね、アメリア。利益は大切よ。金銭的な安定がどれほど大切か・・・・・・あなたが一番知っているんじゃないの?」


 刺すような目でアメリアを見つめるローズ。

 そこでアメリアは自分の過去について、この幼い女の子が知っていると気づいた。一瞬、冨岡がそれを話したのではないか、という考えが過る。だが、冨岡が幼いローズにわざわざそんなことを言うわけがない。おそらくジルホークとの問題解決の際、ダルクが調べたことだろう、とアメリアは納得した。


「確かに、私は金銭的な問題によって、苦しんできました。もちろん、自分で選んだ道ですから後悔はありません・・・・・・とは言い切れないですけど。それでもこの場所を守れたことは、私の誇りです。そして、そんな私に手を差し伸べてくれたのはトミオカさんなんです。何の利益もないはずなのに、私を助けてくれました。フィーネに笑顔をくれました。利益もないのに助けてくれるような冨岡さんが、利益を求めて婚姻を結ぶとは思えません。もう一度聞きます。トミオカさんは、ローズ様との婚姻を望んでいるんですか?」


 ローズは自分よりも深く冨岡を理解しているアメリアの言葉を聞き、体から力を抜いて肩を落とした。


「ふぅ・・・・・・これが信頼・・・・・・そして愛かしら」

「ローズ様?」

「安心してアメリア。全部、嘘よ。トミーへの想いは私の一方通行。しっかりとお断りされたわ」

「う、嘘? どうしてそんなことを」

「ムカつくからよ。いつまでもウジウジしている二人に腹が立ったの。せっかく想われているのに、自分の心に蓋をして、その場で足踏みしているあなたにムカついたのよ、アメリア。自覚しなさい、アメリア。自分の気持ちに正直でいなさい。ローズ・キュルケースの人生最初で最後の敗北の重みを背負って、進みなさい」

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