第405話 キュルケースパンチ
ローズは強く宣言すると、持っていたジュースを飲み干す。
アメリアは幼いライバルからの言葉を受けて、自分の気持ちと向き合ってみた。
まだ子どものローズにここまで言わせておいて、自分が逃げ続けていいのだろうか。
冨岡が自分の気持ちを受け止めてくれなければどうしよう、という怖さ。ようやく安定し始めたというのに、全てが壊れてしまうかもしれない。
利益など求めず、助けてくれた冨岡に対する侮辱になる可能性もある。
それでもアメリアの中に芽生えた、冨岡への気持ちは日に日に増していく。ずっと一緒にいたいと望むからこそ、恐怖を感じ保身的になる。動けなくなっていくのだ。
本当に自分でいいのだろうか。自分が、冨岡の隣にいていいのだろうか。
「ローズ様、私・・・・・・」
「何? 私なんかでいいのか、なんて言ったらキュルケースパンチをお見舞いするわよ」
そう答えながら、ローズは右手を掲げる。華奢で可愛らしい右手だ。
「キュルケースパンチ?」
「キュルケース家に伝わる秘伝のパンチよ。主に、臆病者の性根を叩き直すために使われるわ。いい? アメリア。トミーはあなたたちのために、様々な行動をとっているでしょう? それはどうして?」
ローズはアメリアの手を握ってから問いかける。
どうして冨岡は、アメリアたちを助けるのか。アメリアは真正面からぶつかってくるローズに対して、本心で答える。
「それは、優しいからじゃないでしょうか」
「優しさ、それもあるでしょうね。トミーは私に対しても、優しさで問題を解決してくれたわ。けれど、優しさには限界があるのよ。トミーの行動は、優しさの範疇を超えている・・・・・・そんなことあなたが一番理解しているでしょう」
確かにそうだ。アメリアは現在の安定を壊したくなくて、直視していなかったが、冨岡の行動は優しさだけで説明できるものではない。
破綻寸前の自分たちと一緒に住み、仕事を生み出し、借金を整理し、多くの子どもたちを救うための場所まで作ってくれた。成り行きや優しさだけでそこまでできるだろうか。
「じゃあ、トミオカさんはどうして・・・・・・」
そこまで言っても本心を自覚しないアメリアに痺れを切らし、ローズは彼女の胸を鷲掴みにした。
「きゃっ、ローズ様! 一体何を!」
「アメリア、立派に育った乳房のせいかしら? あなたが本心に届けないのは、これが邪魔しているからね?」
「痛いです、ローズ様。ちょ、ちょっと」
「ムカつくわね、せっかくトミーと大きな年齢差もなく今すぐ婚姻を結べるのに。これほど成長しているというのに。この奥にあるものがわからないの? それと同じものをトミーも持っているのよ。全く、ここまで言わないとダメなの、あなた」
「私の本心と同じ・・・・・・トミオカさんが私を助けてくれるのは、愛情を持っているから・・・・・・」
ようやく答えに辿り着いたアメリア。
そんな彼女の言葉を聞いたローズは、優しく微笑む。
「わかっているじゃない、アメリア。そして、自分自身がトミーを愛しているって気づいたのね」
「・・・・・・はい。ローズ様、私・・・・・・トミオカさんが好きです。遅くなりましたが、これが私の答えです」
「ふぅ、大人ってめんどくさいわね。最初から私は、それを聞いていたのよ、アメリア」
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