第403話 ローズとアメリア

 ローズに話しかけられたアメリアは、持っていた皿を置いてしゃがみ、目線を合わせる。


「そうですが・・・・・・公爵令嬢様ですね?」

「ローズでいいわ。それよりもあなたとお話がしたいの。今、いいかしら?」

「少しだけ待ってもらってもいいですか、ローズ様。フィーネとリオに焼けたお肉をあげたくって」


 アメリアがそう言って、バーベキュー台に向かおうとした。するとローズが「待って」と声をかける。


「ダルク、アメリアの代わりに子どもたちの世話をしてあげて」


 ダルクに指示をするローズは表情が強張っており、行動力の割にはぎこちなさが感じられた。

 ローズの指示に従い、フィーネとリオの肉を焼くダルク。

 その隣の椅子に座ったローズは、アメリアに対してさらに隣の椅子に座るよう言う。

 並んで座ったアメリアとローズは、それぞれ自分の飲み物を持って視線を交差させていた。


「それで、ローズ様。お話ってなんでしょうか」


 先に言葉を放ったのはアメリア。

 問いかけられたローズは飲み物のグラスを強く握って、一歩踏み出すように口を開く。


「は、話っていうのは!」


 声は裏返り、声量も調整できていない。ローズは咳払いをすることで、高音をなかったことにして言葉を続けた。


「話っていうのは、トミーのことよ」

「トミー? ああ、トミオカさんのことですね。えっと、ローズ様には大変お世話になっていると聞いています。いつもありがとうございます」


 この言葉は、アメリアの嘘偽りない本心だ。冨岡を経由しているものの、アメリア自身もキュルケース家には助けられている。

 正式に感謝の言葉を述べたいと思っていたところだ。

 だが、ローズは唇を尖らせて返答する。


「お世話になってるって夫人気取りじゃない。いいわ、この際はっきり聞く。あなたトミーの恋人?」

「へ!? こ、恋人!? な、な、何を言っているんですか、ローズ様!」


 ローズの言葉に動揺したアメリアは、持っていたグラスを落としそうになった。落下させる寸前でなんとか強く握り、破損を防いだところでアメリアの目は少し離れた冨岡に向けられる。


「私がトミオカさんの恋人って、そんな」


 声は届かない距離。そこで冨岡は楽しそうにホース公爵と酒を飲んでいた。何か面白い話でもあったのだろう。無邪気な笑顔が見えた。

 アメリアはその瞬間に、冨岡の存在を強く意識し、顔が真っ赤になる。

 その反応を見ていたローズは、呆れたように息を吐いた。


「わっかりやすいわね。もう答えなくていいわよ。あなたにとってもトミーは特別ってことね。はぁ・・・・・・なんて表情しているのよ、あなた」

「へ? 私の表情ですか?」

「熟れた果実のように真っ赤になって、とろけるような甘い目をして、舞い上がりそうなほど口元が緩んでいるわよ」


 そう言われたアメリアは慌てて自分の顔に触れる。粘土細工でもするかのように、手で表情を整えると、背筋を伸ばした。


「あ、あの、ローズ様。もしかしてローズ様はトミオカさんのこと・・・・・・その」

「ええ、好きよ。いずれキュルケース公爵の名を継いでもらおうと思っているの。公爵になれば、この学園を大きくすることも容易じゃないかしら」

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