第402話 親とは
歓迎会が始まってすぐ、冨岡はホース公爵と同じ机を囲んで座った。
ローズも会話に入ってくるかと思っていたが、ダルクを連れて屋台の方に向かっていく。
その背中を追おうとした冨岡は、ホース公爵に止められる。
「良くも悪くもローズは、自分の立場に近しい人間としか接していない。せっかくこういった場だからね、私やトミオカ殿以外の者と話そうと思ったのであれば、自由にさせてやりたい。遠くから見守るのに付き合ってくれないか」
公爵にそう言われた冨岡は、立ちあがろうと右足にのせた体重を椅子に戻した。
「親って感じですね」
冨岡が微笑むと、ホース公爵は首を傾げる。
「親?」
「ああ、俺の国での話です。俺の国には漢字っていう文字があって、それが『木』と『立つ』と『見る』を組み合わせた形になっているんです。だから、親は木の上のように高いところから、見守っているんだ・・・・・・みたいに言われているんですよ。まさしく今の公爵様は、親だなぁと思って。あれ、めっちゃ普通の話になっちゃいましたね。そりゃ親なんですよね」
絶対に伝わらないだろう『漢字』の話を持ち出して説明する冨岡。
すると公爵は納得したように微笑んだ。
「話は飛ぶがトミオカ殿、子どもは?」
「自分の子どもはいないですよ。ただ、この学園で受け入れた子どもたちは、自分の子どもだと思ってます。フィーネちゃんやリオくんを」
「そうか、そうだな。確かにあの子たちはトミオカ殿の子どものようなものだろう。実の親だからといって、その気持ちに違いはないはずだ。けれど、何年も一番近くで見てきたことで変わるものもある。私から言わせれば、手を出さずに見守れる親は、それほど多くない。突き放すわけでもなく、ね。トミオカ殿の国にある『親』の話は、理想でありそうすべきだという指標なのだろう。私が今、ローズの背中を追いかけたい気持ちを堪えているように。決して『普通』なだけではないと、私は思う」
親の立場から放たれるホース公爵の言葉は、これからより一層『親代わり』として気合を入れなければならない冨岡に深く突き刺さる。
手を出しすぎてはならない、というのは理解していても、実践するのは容易くない。意識することが大切である、とホース公爵は教えてくれているのだ。
それに倣って、ローズの背中を見守る。
すると彼女は、屋台の近くでアメリアに話しかけていた。
正直、何を話しているのか気になって仕方がない。が、遠くから見守る。
「ごきげんよう、あなたがアメリアね?」
躊躇なくアメリアに話しかけるローズ。
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