第399話 サプライズゲスト

 もう歓迎会もとい、懇親会を始められるというのに教会の敷地内から出た冨岡。

 彼が向かった場所とは。

 なんてことをレボルが考えながら準備を進めているうちに、冨岡は戻ってきた。時間にして三十分もないくらいだろう。

 教会前のスペースは、孤児院を兼ねていた性質上無駄に広い。その広場がいっぱいになるほど人が集まっていた。その中には移動販売『ピース』関係の全員、ミルコの工房の従業員、そしてその家族、さらに教会を学園に改修する工事の関係者たちだ。ざっと見て五十人はいる。

 その全員が冨岡の帰りを待っていた。


「ようやく戻ってきましたか、トミオカ・・・・・・さん!?」


 迎えに出てきたレボルが一気に硬直する。

 その視線は冨岡の背後にいる人々に向けられていた。

 裏返りそうな声を聞いた広場の面々は、合わせたように冨岡の方へ目をやるが、全員がレボルと同じ表情を浮かべる。

 それどころか、ドミノ倒しでもするかのように頭を下げ始めたのだ。

 冨岡は苦笑しながら振り返る。


「あー、そうなっちゃいますよね・・・・・・ホース・キュルケース公爵様とローズお嬢様がいきなり現れたんじゃあ」


 そう、冨岡の思いつきとはキュルケース公爵とその令嬢を連れてくること。

 そして偶然にも公爵の予定が空いており、参加が可能であった。

 公爵が参加するとなれば当然ローズも来るし、執事であるダルクも来る。公爵夫人に関しては『夫人会』なるものがあるらしく、参加できないことを悔やんでいた。

 これもまた貴族の役目だ、と嗜められ仕方なく冨岡たちを見送っていたのである。


「トミオカ殿? 説明をしていなかったのかい?」


 公爵が問いかける。

 すると冨岡は誤魔化すように笑って見せた。


「思いつきでそのまま誘いに行っちゃったんですよね。せっかくだから、完成間近の学園も見て欲しかったですし」

「誘ってくれたのは嬉しいが、トミオカ殿。これはもう完全に・・・・・・萎縮、というやつじゃないかい?」

「萎縮ですね、これ以上にないくらい。まぁでも多分、公爵様が一言『楽にせよ』とか言えば大丈夫ですよ」


 冨岡はそう言ってからローズに話しかける。


「ローズ、今日は美味しいものをいっぱい用意してますから、楽しんで行ってくださいね」

「そんなことより、トミーが親しくしている女性はどこにいるのかしら。ダルクがポロッと漏らしていたわ。確か、アメリア・・・・・・とか言ったかしら」


 その目は完全にライバルを探す戦士であった。

 さらにローズはこう付け足す。


「挨拶しなくちゃ・・・・・・ね」

「ローズ、目が怖いです。でもアメリアさんなら屋台の方にいると思いますよ。あとで一緒に行きましょう」


 冨岡はそう答えてから、ダルクに抗議の視線を送った。

 その会話に耳を傾けていたホース公爵だが、流石に萎縮した空気はどうにかしなかればならない、と息を吸い込む。


「皆、私は何者でもない、トミオカ殿の友人だ。ただの友人でしかない。どうか、気にせず楽にしていてくれ」

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