第397話 ケーキの期待

 しかし、冨岡は歓迎会準備組でも貧民街組でもない。

 買い出し組である。

 鏡を通って元の世界に戻り、いつもは美作に頼んでいる買い出しを自分で行うことにした。


「やっぱ、空気は違うな。日本の空気は懐かしく感じる」


 鏡を通り、自家用車に向かいながら冨岡は、そんなことを呟いてみる。

 異世界では寝ている時以外、誰かといることが多いので、一人の時間が寂しいのかもしれない。不自然な独り言はそのせいだろう。

 山の中にある実家は静かで寂しげなのも理由だ。


「移動販売『ピース』で使う食材は美作さんにお願いしてるから、歓迎会で食べるものを買えばいいか。子どもたちもいるし、本格的なケーキを買いたいと思ってたんだよね。甘いものはあるけど、大きなホールケーキは買って行ったことないし・・・・・・やっぱり特別感あるよな」


 冨岡は自分の子ども時代を思い出す。

 たまに食べるケーキ屋さんのケーキに、どれほど感動したことだろう。軽く踊り出すほど嬉しかったはずだ。せっかくの歓迎会なら、とケーキ屋さんにも寄ることにした。

 あとは酒屋でいつもより高級な酒と、肉屋で数種類の肉。

 ホームセンターでバーベキューセットを購入した。

 買い出しのため移動している途中で、ミルコたち大工もバーベキューの匂いに集まってくるのでは、と考え、一度街に戻ってバーベキューセットを幾つか追加。

 肉屋で肉をキロ単位で購入した。

 パンパンになった車で帰ると、全てを荷車に載せられないことに気づき、教会で片付けをしているドロフとメレブを呼んでくる。

 路地裏の入り口で待たせておき、荷を運ばせた。


「兄貴、すごい量の荷物っすね。肉と・・・・・・こっちは何ですか?」

 

 屋台の隣で荷車を覗き込みながら、ドロフが言う。

 冨岡はそれを降ろすように指示をしながら答えた。


「それはバーベキューセットだ。簡易的な机と椅子も用意してある」

「バーベキューセット?」

「簡単に言えば、その中で火を起こして網を載せ、肉を焼くんだ。火おこしは任せていいか?」


 最初はライターを使って火おこしをしようと考えていたが、魔法に頼った方が早い。

 結局、バーベキュー台は五つあり、ドロフとメレブは手分けして準備し始めた。

 冨岡が帰ってきたことに気づいたフィーネが、嬉しそうに駆け寄ってくる。


「トミオカさん、帰ってきたの! おかえり。何買ったの?」

「うーん、いいものだよ。これ、冷蔵庫に運んでくれるかい?」


 ケーキの箱を手渡す冨岡。購入時に大きなケーキを買ったサービスとしてお菓子を幾つか入れておきました、と言われている。

 喜んでくれるだろう、と微笑みながらフィーネの背中を眺めていた。

 そんな冨岡に、レボルが屋台の中から声をかける。


「トミオカさん、言われてた通り、簡単につまめるものを用意しておきました。これでいいですか?」

「ええ、大丈夫です。外に机があるので運んでください!」

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