第396話 歓迎会

 屋台に戻ったドロフ。

 布巾を持ってカウンターの清掃に着手しようとすると、アメリアの方から話しかけた。


「ドロフさん、カウンターの清掃は優しく、ですよ。傷つけないように優しく」

「はい、アメリア姐さん。あ、その、えっと、何度もこんなこと言うのは良くないと思うんですけど、これまでの」


 彼が何を言おうとしているのか、アメリアは言葉の途中で察し、首を横に振る。


「ドロフさん、今は仕事中ですよ。そんな顔をしないでください。それと・・・・・・お花、ありがとうございます。フィーネが喜んでいると、私まで嬉しくなります。これからも、フィーネやリオのことよろしくお願いしますね。大切な『未来』ですから」

「姐さん・・・・・・はい! 一生ついていきます!」


 冨岡やレボルは全ての言葉を聞いていた。

 アメリアが前向きに決断し、受け入れた勇気と優しさ。改めてその凛とした美しさに、冨岡は惹かれる。

 パンケーキを作る時、全ての材料を一気に入れればダマができるもの。

 今回、ドロフとメレブを無理やり加入させたことでダマができていた。一気に投入したのだから当然である。

 けれど丁寧に混ぜていけば、綺麗に混ざり合う。

 それぞれが相手のことを理解し、共に歩みたいと願う気持ちはより良いものを生み出すのだ。


「今日は早めに店を閉めて、ドロフとメレブの歓迎会でもしますか。せっかくですからね」


 冨岡はそう言いながら、外の客数を確認する。

 それほどの人数ではない。一時間もあれば捌き切れるだろう。

 その言葉を聞いたアメリアは、冨岡に「いいんですか?」と聞き返した。

 歓迎会をすることに関しては賛成だが、仕事時間が短くなることに不安を感じるのだろう。これまで仕事を必死に探すような生活をしていたのだ。不安は当然かもしれない。

 冨岡は優しく笑う。


「俺の国では、新しく一緒に仕事をするようになれば歓迎会をするんです。レボルさんや二号店の人たちの時は忙しくて、ちゃんとできなかったですからね。ついで、なんて言い方をするのは良くないでしょうけど、学園計画の大きな進展のお祝いも兼ねてパーっと!」


 冨岡の隣でレボルがわかりやすく口角を上げた。


「パーっと、ということはお酒も飲めるんでしょうか?」

「いい酒を開けましょう! ワインだけじゃなくて、いろんな種類の酒をね。これから先の英気を養うためにも!」

「これは楽しみです」


 話は決まりだ。

 移動販売『ピース』を早めに閉め、歓迎会準備組と貧民街組に分かれて動き出す。

 

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