第393話 苦手意識
そういえば、と走って行くドロフの背中を見ながら冨岡は思う。
元々ドロフの体は大きい。けれど、これまでよりも大きくなったような気がした。おそらく、移動販売『ピース』で働くようになってから。
そんなことを考えていると、冨岡は祖父、源次郎の言葉を思い出す。
「いいか、浩哉。人間は背筋を伸ばして生きていなければならない。それは真っ当に生きている証だからだ。悪事を働いている時、自然と背中が丸くなるもんだしな。そうすると人間が小さく見える。背丈の話じゃねぇぞ。でっけぇ男になるってのは、真っ当に生きるってことに等しい。でっけぇ男になれ、浩哉。そんで、周囲の人間すらでっかくしてみろ。まぁ、その時にこの言葉の意味がわかるかもしれねぇな」
ドロフの背中が大きくなったように感じるのは、真っ当に生きようと彼自身が思ったからなのかもしれない。そうだとするなら、ドロフの変化は見せかけのものではないということだ。そうだといいな、と冨岡は微笑んでみる。
その視野の中に、接客をするアメリアが映った。
商品と金銭のやり取りをしているので、笑顔を保っているが、どことなく不安そうでもある。
「アメリアさん・・・・・・」
もうドロフとメレブに危険性はないだろう。生活がかかっているし、冨岡に対して恩義を感じてもいる。他にいくあてもないし、せっかく手に入れた真っ当な生き方を捨てようとは思わないはずだ。
けれど、アメリアからすると嫌な思い出と共に二人の面影が残り続けている。
危険性がないとわかった今でも、苦手意識が消せないのかもしれない。
「独断専行しすぎたかな。でも、あの時ドロフとメレブを見逃してたら、また襲われかねないし。見捨ててたら、二人とも・・・・・・けどアメリアさんの気持ちを考えたらなぁ」
自分の行動は性急だった、と反省する冨岡。
危険性はなく、人員が増えることで仕事も広がる。その上、ドロフとメレブの人生をよりよく変えていける。そう考えてのことだったが、アメリアが苦手意識を持つのもわかる。
こういった問題は大抵、時間が解決してくれるものだが、なんとなく待っているだけではだめな気がした。
有耶無耶にすべき問題ではない。これから先、一緒に発展していこうと考えるのならば、心からの信頼が必要である。
「ドロフとメレブが謝罪するだけじゃ、アメリアさんの苦手意識は消えない・・・・・・そりゃ怖いよなぁ、指示を受けたとはいえ男二人に囲まれたんだから。俺の考えが甘かったか」
そんなことを考えながら、ハンバーグを焼き続ける冨岡。
そのうちに遠くから走ってくるドロフが見えた。
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