第392話 試験的サービス

 冨岡とメレブが少しだけ心の距離を近づけた同日。

 ドロフは、メレブと離れて一号店の方で護衛と雑用を任されていた。


「ドロフ、この料理を届けて欲しい」


 冨岡がそう言いながら、紙袋いっぱいに入れたハンバーガーをドロフに手渡す。

 それと同時にレボルが手書きした地図も。


「兄貴、これは?」

「兄貴はやめてくれって。トミオカでいいよ。ああ、それは試験的に行ってる宅配サービスだよ」

「タクハイサービス? なんすか、それ」

「事前に予約をもらってれば、自宅や職場に食べ物を配達するんだ。わざわざ屋台まで来ると、昼休憩の時間がもったいないだろ? それに屋台まで来れないお年寄りなんかもいるはずだ。そういった層を顧客にしようと思ってね」


 冨岡の説明を聞いたドロフは、感心したように頷いてから首を傾げる。


「ほぉ、なんか凄そうっすね。あれ? でも俺、そんなに頭良くないからわかんねぇんすけど、配達に一人割くじゃないっすか。その分、儲かるようになるんですか?」


 頭が良くない、と言いながらドロフは利益の話を持ち出した。

 もちろん、彼の言うことは正しい。人件費が一人分必要になる上に、この世界に宅配サービスは根付いていない。成功するとも限らないのだ。

 ドロフがビジネス的な観点を持っていることに驚きながら、冨岡は微笑む。


「すごいな、ドロフ。ちゃんと考えてくれてるんだな」

「そりゃ、兄貴に救われた命っすから。俺ら馬鹿の言う『兄貴』はファミリーって意味っすよ。損はしてほしくないじゃないですか。それに兄貴が損をすると、俺も路頭に迷いますからね」

「ははっ、そんな心配はいらないよ。何があっても一度雇った従業員の人生は保証する。そうか・・・・・・ファミリーか。ありがとう、ドロフ」


 唯一の家族を亡くし、異世界にやってきた冨岡にとってその言葉は嬉しいものだった。

 礼を言った上で、冨岡は言葉を続ける。


「まぁ、この宅配サービス自体は赤字だよ。だけど、商売をする上で一番大事なのは知名度と信頼だ。サービスによって名前が広がれば、お客さんも増えるだろうし、これまでにない層の顧客を掴めるって利点もある。狡く言い換えるのなら、作戦ってやつだ」

「なるほど! 冒険者も誠実なパーティは引っ張りだこっすもんね。さっすが兄貴だぜ」

「兄貴はやめろって。それに、ドロフは元冒険者でこの街にも詳しいだろ? 俺が運ぶよりも迅速に、料理が冷める前に運べるってわけだ。大変だろうが、頼むよ」

「任せてください。この住所ならすぐ運べます。まぁ、地の果てだろうが、兄貴のためなら」

「冷めるわ、そんなん」


 冨岡の指示を受け、ドロフは屋台を飛び出した。

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