第391話 淘汰されてきた無口
ドロフとメレブは、幼い頃から二人で過ごしていた。
特段、性格が合うというわけではない。
気性が荒く、誰にでも噛み付くことで他者から疎まれるドロフ。自己主張が苦手であり、無言で過ごし、周囲との距離があるメレブ。
嫌われ者の二人は、いつの間にか一緒にいることが多くなり、気づけば常に一緒にいた。
互いの家庭が貧しかったこともあり、自然な流れで冒険者となる。自分の腕っぷしだけで稼げるからだ。
しかし、そこには大きな誤算があった。
冒険者ギルドに所属するということは、そこにもまた協調性が求められる。
「ドロフが単独行動を行ったせいで依頼失敗した」
「メレブとは意思疎通ができない。これ以上組めない」
最初は責任のなすりつけや批判程度の話だった。
だが二人への風当たりは次第に悪化する。
例えば、貴重品運搬の依頼時、高価なものが紛失したこともあった。それはドロフやメレブ以外の者が、利益を得ようと犯したもの。
そしてその罪は、周囲からの評判が悪い二人に被せられた。
他人とのコミュニケーションを怠ったドロフとメレブにも責任がある。そのような考え方もだろうだろう。
いや、罪は罪だ。犯した者の罪であり、罰せられるのは罪人だ。
日々、そんな状況が続き、ついにドロフとメレブは自分に罪を被せた者を殴ったのである。
その結果が『素行不良』というレッテル。
二人は冒険者ギルドを追い出され、流れるままジルホークに拾われた。
人を信じられなくなった時、差し伸べられた手。その手がどれほど汚れていようと、暖かさを忘れられなかったのだ。
けれど、ようやく二人は安心して居続けられる居場所を手に入れた。
「メレブ、こっちも頼むよ。荷物を二号店に運んでくれ」
冨岡が荷車の荷物を指差す。
メレブは黙って頷き、段ボール箱を担いだ。大きな体を目一杯に使って、効率的に運搬するメレブ。
そんな姿を見た冨岡は、純粋な疑問を口にする。
「メレブって無口だよね」
そう言われたメレブは、冒険者ギルド以前のことを思い出してしまった。
自分の無口さが他者との軋轢を生み、状況を悪化させてきたこと。
その息苦しさはどこにいても変わらないのか。自分が変わるしかないのか。
メレブは俯き気味に答える。
「俺・・・・・・話すの苦手だから。でも、頑張って喋るようにするから、頑張るから」
「ん? そのままでもいいんじゃないか?」
冨岡があっけらかんと言い放つ。その言葉があまりにも自然だったため、メレブは硬直した。
「で、でも、俺」
「そんなに気にすることないさ。俺の国には『口より手を動かす』って言葉があるくらいだしな。むしろ無口なのに腕がいい、なんてかっこいいじゃん。自然体でいればいいよ。楽しい時は笑って、悲しい時は泣いて、話したい時に話す。少なくとも俺は無口が悪いことだと思わないよ」
「兄貴・・・・・・」
「ははっ、兄貴はやめろって。今日は二号店の護衛を頼むな、あと皿洗いも。じゃ、尊い労働に行きますか!」
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