第389話 誰が
そんな説明を聞いたアメリアは、顔を近づけるようにして冨岡に問いかける。
「一体何をしたんですか、トミオカさん」
「え? 別に変なことはしていませんよ。まずは・・・・・・」
昨夜、冨岡がドロフたちに持ちかけた話。
それは選ぶ余地のない選択肢だった。
最初に冨岡は、ドロフたちにこう問いかける。
「そもそもどうしてジルホークに従うのさ。トカゲの尻尾みたいに切られても尚、ジルホークの元に戻りたいと言った。まぁ、それは便宜上の理由だったけど、それでも元通りに戻れるなら戻りたいと思ってる」
それに対してドロフは、このように答えた。
「ジルホーク様は俺たちに仕事をくれたんだ! 素行不良を理由に冒険者ギルドから追い出され、盗賊まがいの追い剥ぎや、ゴミを漁るしか術がなかった俺たちにだ。人として最底辺の生き方をするしかなかった俺たちにとって、それはどれほどの救いだったか、お前にわかるわけがない!」
「でも結局、切られた。汚れ仕事を任せて、上手くいかなければすぐに切る。つまりアンタたちは便利な・・・・・・」
「うるさい! 他に誰が俺たちを救ってくれるってんだ! あの生活は俺たちにとって、大切なもんだったんだ。人として生きられる術、その・・・・・・」
食い気味に叫ぶドロフ。しかしその言葉を更に断ち切って、冨岡は鋭く言い放った。
「目を逸らすなよ。事実から」
「何を!」
「分かってるんだろ、ジルホークはアンタたちを小銭で拾ったんだ。安い買い物だった、くらいにしか思ってないぞ。危うい仕事を任せて、波風が自分の身に近づけば切る。そんな便利な身代わり人形・・・・・・道具。それだけだ」
分かっていたとしても、受け入れ難い残酷な真実。
本来、冨岡はそんなものを直に突きつけるようなことはしない。これは命を狙われ、襲われたことへのちょっとした仕返しでもあるし、必要な段階でもあった。
ひとまずは、ドロフたちに現状を受け入れさせること。
「うるっせぇ! お前に何がわかる!」
激昂するドロフ。隣で縛られているメレブがそんな彼を止める。
「ドロフ!」
「止めるなメレブ!」
それでもドロフの感情は止まらない。冨岡に噛みつきそうな顔で、真っ直ぐ睨みつけていた。
そこで冨岡は、挑発するような笑みを浮かべる。
「そんなもの、人間扱いって呼べるかな?」
「黙れ、お前に何がわかるってんだ! 想像してみろ、腐った果実を齧るしかない状況を! 飢えた弟が、皮と骨だけになって土を食べようとするんだ。それを必死に止めるしかない。それでも食べるものなど与えることができず、他人から奪うんだ。病に侵され、死にかけたことなんていくらでもある。それに比べれば・・・・・・他に誰が俺たちを雇ってくれるってんだ!」
ようやくその言葉を引き出した。
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