第388話 えげつないほどの飴と鞭

 夜の街にドロフたちの悲鳴が響いた後、レボルには少し離れた場所で待っていてもらい、冨岡はいつも通りの『仕入れ』を行なった。

 路地裏から大荷物を載せた荷車を持ち出すと、レボルは不思議そうに首を傾げて迎える。


「そういえば、こんな時間にこんな路地裏で仕入れですか。それもこんな量を。まるで密輸入しているみたいですね」

「そ、そんなことはしてませんよ。法を犯すようなことは何も。商人が少し偏屈な方でして、路地裏でひっそりと輸入商品を卸してるんです。ものすごーく相手を絞って。だからレボルさんの気配があれば、売ってくれなくなるんですよ」

「なるほど。確かに貴重な食品ばかりですからね。独自のルートを奪われぬよう警戒するのは大切なことですね」


 何とか元の世界と繋ぐ鏡のことを誤魔化し、再びドロフたちの元に戻った。

 先ほど、レボルの一撃によって気を失った男たちは、気持ちよさそうに重なり合って白目を剥いている。


「それで・・・・・・この二人をどうするんですか?」


 レボルに問いかけられた冨岡は、悪巧みをする子どものような微笑みを浮かべた。


「俺に考えがあります」


 翌朝、朝食の準備をしようと起きてきたアメリアが屋台で見たのは、自分を襲おうとしたドロフとメレブの姿だった。


「な、何ですか、あなたたち!」


 警戒するアメリアに対して、包帯と湿布だらけのドロフは自分の後頭部を撫で、謙るように笑顔で挨拶する。


「へへっ、おはようございます、アメリア姐さん」


 続いて無口なメレブも頭を下げた。


「よろしくお願いします」

「ど、どういうことですか。あなたたちはジルホーク様の・・・・・・」


 戸惑うアメリアに対して、ドロフがこう返答する。


「ジルホーク? あんな奴、もう関係ありませんよ。へへっ、俺たちは兄貴に忠誠を誓ったんです、はい。もはや時代は兄貴のものですよ。俺たちゃ、身を粉にして働きますぜ」


 ちょうどそこへ、起きたばかりの冨岡が顔を出した。


「おはようございます・・・・・・って、ドロフにメレブ。もう来てたのか」


 冨岡を見つけた途端、アメリアは安心したように肩を寄せる。


「トミオカさん! この人たちは一体」

「ああ、こっちがドロフで、あっちがメレブです」

「そうじゃなくて、ジルホーク様の手先ですよね? 一体どうしてここに」

「話すと長くなりますけど、昨日襲われたんです。そんで、雇いました」


 壊滅的に説明が下手くそな冨岡に対して、言葉を失うアメリア。

 襲われて雇うまでの説明がなさすぎる。そこへタイミングを見計らったかのようにレボルが出勤してきた。


「雇うじゃなくて、脅して従えた、が正しいんじゃないですか? えげつないほどの飴と鞭。まぁ、あれで納得しない者などいないでしょうが」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る