第385話 独断専行と余裕

 男たちは同時に怒り始め、冨岡をすごい形相で睨みつける。

 冨岡の記憶にはアメリアとの出会いとして刻まれており、彼女を襲っていた男たちのことも覚えていないわけではないが、存在としての認識だった。顔までは覚えていない。端的に言えば悪役モブ。

 結局のところ、逆恨みは逆恨みだったというわけである。


「それで、俺に復讐をしようってことですか?」


 冨岡が問いかけると、男は犬歯を見せびらかすように不気味な笑みを浮かべた。


「テメェを消せば、ジルホーク様はあの女が手に入れられる。そうなれば俺たちはジルホーク様の手足として返り咲くことができるんだ!」


 声高々に話す男たちに対して冨岡は、夜中に人を襲うなら静かにすべきじゃないのかな、と呆れてしまう。

 男は更に言葉を続けた。


「テメェのせいであの女は、収入源を得た。それさえなくなれば、ジルホーク様に付き従うしかなくなる」


 そんな脅そうとする男たちに対して、冨岡はこう返す。


「その前に名前聞いていいです? 名前も知らない人たちをどう呼べばいいのかわかんないんで」

「今から死ぬのに冷静だな、テメェ! いいだろう、殺す前に教えてやる。俺はドロフ、あっちがメレブだ!」


 名乗ったドロフたちに冨岡は質問を続けた。


「あと、もう一つ聞きたいんですけど、ジルホークってミルコを脅してうちの屋台を襲わせたじゃないですか。その時にキュルケース公爵家から、圧力があったと思うんですけど」

「ああ? しらねぇよ。その頃にはもう切られてたからな、俺たち」


 随分とかっこ悪いことを堂々と言うものだ、と冨岡は苦笑する。


「確認したほうがいいと思いますよ。多分、余計なことすれば、ジルホークが劣勢になるだけじゃないかな」

「関係ねぇ! 俺たちの気が済まないって話だ」


 やれやれとため息をつく冨岡。

 ミルコが襲撃してきた時、キュルケース家からジルホークに話が通っているはずだ。その先の結果は知らないが、公爵家の権力を考えればジルホークにはある程度の罰則が与えられているだろう。

 今回のドロフたちの独断は悪手と言っていい。

 それも計算しての行動だと言っていたのに、最終的には感情を優先させた結果だと主張を変えた。

 見上げた愚か者である。

 

「じゃあ、背後にジルホークはいなくて、俺に復讐したいってことか」


 冨岡が納得したように言うと、ドロフが眉間に皺を寄せた。


「だったらどうなんだよ!」

「いや、それさえわかれば大丈夫」

「やけに冷静だな、テメェ。今から死ぬってのによ!」

「どうかな」


 そう答えると、冨岡は大きく息を吸い込む。

 こんな状況になっても冨岡が冷静でいられた理由。それは『この展開を予想していたから』である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る