第384話 小悪党

 アメリアたちやノルマンとの夕食後、明日の仕込みをレボルとアメリア、子どもたちの勉強をノルマンに任せた冨岡は、屋台を出る。ちなみにリオとフィーネが『小児暴走』を起こさぬように、勉強の合間に魔力コントロールを教える、という話で落ち着いた。

 もう慣れた毎日の業務。元の世界から食材や資材を仕入れるために、路地裏にある世界と世界を渡る鏡に向かっていた冨岡。

 その道中、突如として大柄な男二人に襲われ、縄で縛り上げられたのである。


「なんのために俺を・・・・・・離せ!」


 普段、あまり負の感情を露わにしない冨岡が、明確に嫌悪を示し、叫んでいた。

 それは恐怖からくる感情の昂りであったし、戸惑いを隠すための虚勢でもある。人間は強い怒りを感じている時、恐怖を覚えにくい。冨岡は本能的に恐怖を消そうとしたのだろう。

 すると目の前の男たちのうち、一人が気色の悪い笑みを浮かべた。


「テメェ、俺たちのことを忘れたのか? 俺たちはテメェのことを忘れはしねぇよ。俺たちから全てを奪ったテメェをな!」


 男の言葉に冨岡は戸惑う。


「俺が全てを奪った?」


 そう言いながら、レボルの言葉を再び思い出していた。

 周辺の飲食店オーナーが逆恨みをする可能性がある。


「もしかして、この街で飲食店を?」

「ちげぇよ! テメェ本当に覚えてねぇんだな!」


 食い気味に言い返す男。確かに男たちの風貌からは清潔感など感じられない。飲食店のオーナーというには無理がある。

 けれど、そう言われれば確かに見覚えがある気がした。


「えー、どこかで見た気がするな・・・・・・あれでしたっけ? 公衆浴場で盗みをしようとしているところを、俺が止めて捕まった人か」


 思い当たる節として冨岡が言うと、男は不満を明確に表す。


「そんな小悪党じゃねぇよ!」

「じゃあ、街中でスリをしているところを俺が止めた時の」

「だからちげぇって! つか、何でもかんでも首を突っ込んでるな。お前。お人好しかよ!」

「いやぁ、それほどでも」

「褒めてねぇよ!」


 冨岡のエピソードに呆れる男。

 本当に見覚えはあるのだが、どこで会ったのかは覚えていない。ただ、何かしらの悪人であることは間違いない。少なくとも、現時点で冨岡に暴行を加えている罪人だ。


「だったら、どこで・・・・・・」

「これで思いださねぇか? 『ジルホーク様』そして『路地裏』だ」


 ジルホーク、路地裏。この二つの単語は冨岡の記憶に鋭く刻まれていた。

 

「あ! 路地裏でアメリアさんを襲っていた!」

「ああ、そうさ。俺たちはジルホーク様の手足だった。しかし、お前に邪魔をされ、ジルホーク様の信頼を失い、全てを失った・・・・・・お前だけは許さん!」

「手足って・・・・・・手足なら切られることはないでしょう。せいぜいトカゲの尻尾だ」

「テメェ、本当に許さんからな。立場わかってんのか!」

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