第383話 理不尽な悪意
楽しい一夜の翌日、いつも通りの仕事をこなした夕食時に冨岡は、屋台の中でノルマンに驚きの目を向けていた。
「確かに暇があればいつでも来てください、って言いましたけど。次の日に来るなんて思わないじゃないですか。ってか、いつの間に」
冨岡が教会改装現場内を見回って屋台に戻ってきた時、その前まではいなかったノルマンがレボルの淹れた茶を飲んでいたのである。
ちなみにアメリアやフィーネ、リオは屋台の外で作業員たちに夕食を配っている。
するとレボルが軽快な包丁の音を立てながら、代わりに答えた。
「二号店の屋台を見つけたらしく、声をかけてきたそうですよ。トミオカさんの知人だから、と。二号店の者たちは戸惑ったみたいですが、オーナーの知り合いならばとお連れしたと言っていました。ノルマンさんだったので良かったですが、安全性には問題がありますね」
「人を危険人物扱いするでない」
ノルマンが不満そうに言う隣で冨岡は、苦笑いを浮かべる。
「ははっ、そりゃいきなりはびっくりしますよ。ところでレボルさん、安全性って?」
「トミオカさんが底抜けにお人好しであることは、ここで働き始めてから充分すぎるほど理解しています。性善説とでも言うのでしょうか。誰が困っていても助ける、という確固たる意志を感じますし、基本的に人間が好きなのでしょう。絆や繋がりの大切さを知っている、と言い換えてもいい。けれど、誰しもがそうなわけでないんです。トミオカさんに理不尽な悪意を抱く者もいる」
「理不尽な悪意、ですか?」
「ええ、たとえば周辺の飲食店オーナー。私からすれば営業努力や改善をせずに、自分の店の利益を落として新しい店に対して嫌悪感を持つのは、レベルの低い妬みでしかないと思っているのですが、少なからず存在はするでしょう。そんな者がトミオカさんを狙って、ここまでやってこないとも限らない。直接乗り込んでくるより、誰かに連れてきてもらった方が警戒心は薄れるでしょうからね」
レボルの言葉は聞き心地のいいものではなかった。けれど、理解はできる。
護衛も兼ねているレボルからすると、雇い主である冨岡の安全は重要なものだ。
「そっか、そうですね。今後は気をつけます」
「同時にトミオカさんの良さでもありますから、養ってください。人を見る目を。それがトミオカさんに求められる資質である。雇われの身から勝手なことを言わせてもらいましたね」
「目・・・・・・か。そうですね。それに気をつけるにこしたことはありませんし。まぁ、突然襲われるなんて、そうそうあるものじゃないでしょうけど。ははっ」
レボルの忠告を聞き入れながらも、和やかに笑う冨岡。
その数時間後、ずっと頭の中で繰り返していた。レボルの言う『理不尽な悪意』を。
「こんなことして、一体何が目的だ!」
縄で縛られ路地裏に放り込まれた冨岡は、目の前に立つ二人の男に叫ぶ。
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