第369話 魔導機関リュクセル
特に語ることもない、なんて言いながらノルマンの話は大いに冨岡の興味を引く。
「魔法の研究ですか?」
聞き返すとノルマンは、自分用の茶を口に運んでから頷いた。
「ああ、そうじゃよ。魔法の六十年ほどな。まぁ、見たところお前さんには魔法の素養が感じられん。興味もなかろうて」
「確かに俺はそうですけど・・・・・・」
そう答えながら冨岡は『魔法の研究』という言葉に引っかかる。
つい最近、同じような言葉を聞いた。正しくは『魔法の研究機関』だったか。もしかして、と冨岡が言葉を付け足す。
「魔法の研究って、とある貴族様が設立したっていう研究機関でってことですか?」
「ほほう、よう知っておるの。元々は有志で集まって魔法の研究をしておったんじゃがな、利益が出なければ生きてはいけん。そんな折に貴族様が出資して存続したという話じゃ。それをきっかけに組織として大きくなったからの。設立と考えられても不思議ではない。なんじゃ、興味があるのか?」
当然冨岡は頷いた。
魔法の研究機関の話を聞けば、魔王へと繋がる。そして魔王はリオの父親かもしれないのだ。
「もう少し話を聞かせてもらえませんか?」
「ほっほっほ、こんな爺の話でよけりゃいくらでも聞かせてやろう。正式名称は『魔導機関リュクセル』じゃ。人々の生活水準を上げるため、この国の戦力・防御力を上げるために日々研究をしておった。ワシはその中でも魔力検知の専門家でな、設定した範囲内に魔力を持った者が入れば作動する罠や防御壁の発動きっかけを開発したんじゃよ」
魔法について知識のない冨岡は、一瞬『へぇ』程度に考えたが、その技術はこの国に大きな革新をもたらした。
例えば、人間の体重を感知する罠などは、人間でなくとも作動してしまう。
しかし、魔力検知によって何かしらが発動する技術があれば、人間や害をなす魔物だけを対象にすることが可能だ。他の技術よりも誤作動が少ない上に、人員をそこに割く必要がなくなる。
安全圏から必要なタイミングに発動できるということだ。
だが、冨岡にはその凄さがわからない。
「魔力検知ですか。ちょっと想像がつきませんね」
「ほほっ、大したものではないわい。魔法に詳しくない者からすれば、どうでもいい話じゃったな。何か他に聞きたいことはないか?」
ノルマンは優しく冨岡に問いかける。
これは好機だ、と冨岡は一番聞きたかった話を切り出した。
「その・・・・・・リュクセルには有名人がいたって聞いたことがあるんですけど、ご存知ですか?」
「有名人とな? まぁ、デリーザなんかは有名じゃな。傾国と呼ばれるほどの美貌を持っておってな、美人すぎる魔法研究者として有名じゃったわ。今ではもうしわくちゃじゃがな」
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