第365話 旧街道
冨岡の問いに対してノルマンは穏やかに笑う。もう少し危機感を持ってほしいものだ。
「ほっほっほ、住所くらいは覚えておるよ。旧街道三丁目の西筋じゃ。なんじゃ、若いの。我が家に遊びに来たいのか? 婆さんの作るスープは絶品だからのう」
「違いますよ。ノルマンさんを送り届けるんです。ちょっと待っててください。旧街道三丁目の西筋、ですね。道がわかる人に聞いてきますから」
そう言って冨岡は、一度老爺から離れてミルコを探しに行く。
この街で大工を続けているミルコならば、地理にも詳しいだろうという魂胆だ。いや、この街の住人であれば誰でもよかったのだが、ミルコが一番話しやすい。
それにミルコの居場所は、どの職人に聞いてもわかるだろう。この現場の長なのだから。
工事現場に近づき、最初に目についた職人に声をかける冨岡。体が大きく、顔も厳ついので、話しかけづらい空気はあるが、これまでの時間で少しずつ慣れてきたので問題はない。
「あの、すみません」
「ん? なんだ?」
職人は壁の仕上げをしており、作業の手を止めて振り返った。
相手が施主の一人だと気づいたらしく、持っていた道具を置いて言葉を続ける。
「おっと、こりゃ失礼。なんですかい? 壁の仕上げに何か問題でも?」
「いや、そうじゃないんです。俺は素人ですけど、丁寧に素早く仕事をしてもらっていると感謝してるくらいですから。全然関係ない話で申し訳ないんですけど、ミルコの居場所ってわかりますか?」
「ミルコの旦那ですかい? 確か今日は工房で木材の加工をするって言ってたかな。現場には出てないはずだぜ」
これは困った。
ミルコがいないのであれば、この職人に道を聞くべきだろうか。しかし、ちょっとした質問ならともかく、詳しい道を聞くとなれば多少時間を奪ってしまう。
職人に対してそれは失礼な行為だと、冨岡は考えていた。
そんな冨岡の表情から何かを読み取ったらしく、職人は思い出したように言う。
「確かにミルコの旦那はいないけど、同じ工房の職人が一人いたはずだぜ。ブルーノって言ったかな?」
ブルーノは冨岡と知り合ったことで、ミルコの工房に入った職人。冨岡としても話をしやすい相手の一人だ。
「あ、ブルーノさんいるんですね。ブルーノさんはどこにいるかわかりますか?」
「それならわかりやすぜ。ミルコの旦那に代わって、今日は外周の柵設置の施工管理してる。ほら、そこの角を曲がってすぐのところにいるはずですぜ」
職人は言いながら指で示す。冨岡は職人に礼を言って指示通りにブルーノの元に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます