第364話 老爺の正体
老爺の言葉を改めて噛み砕くと、工事には全く関係のない者だという可能性が高い。
「えっと、ノルマンさん?」
「ああ、しがない爺じゃ」
「しがないってどういう意味でしたっけ。なんか、ちょっと自嘲気味に謙遜する雰囲気のある言葉じゃなかったでしたっけ。本当にしがない時に使わないですよね。え、工事を見てただけなんですか?」
冨岡が再度問いかけると、ノルマンは頷く。
「ああ、見ておった。もう、目が乾いてしまうほど見ておった」
「瞬きしてくださいよ」
「瞬きを忘れるほど見事な手際じゃったからな。ワシが若い頃によく似ておる。特に力の入れ方がいいのう。がむしゃらに力を入れればいいというものではない。どれほど力を持っていようと、その方向と効率が悪ければ大きく減少してしまうものじゃ。その逆に効率が良ければ何倍にも膨れ上がる。よくわかっている職人が多いのう」
ノルマンがそう答えたことで、冨岡は更に話がわからなくなった。工事に関係ないと思っていたが、自分の過去と重ねているノルマン。
もしかすると、工房には入っていないが元々大工をしていたのかもしれない。工事の音が懐かしくて眺めに来た。そう考えれば筋は通る。
冨岡は考えをまとめ、納得して話を続けた。
「ああ、なるほど。元々大工をしていたんですね。それならわかりますよ。大きな枠で見れば、大工はノルマンさんの後輩に当たるわけですもんね」
「ほっほっほ、そうじゃのう。若い者は全員後輩みたいなものじゃ。そもそもワシ大工したことないしの」
「・・・・・・いや、本当に誰なんですか」
再び予想を裏切られ、冨岡は怪訝な表情で老爺を見る。
するとノルマンはいつも通り穏やかな口調で答えた。
「だからしがない」
「しがないって何なんですか。工事関係者じゃないし、元大工でもないんですよね。質問を変えますけど、ノルマンさんは何をしている人なんですか?」
ノルマンの正体に迫るべく、冨岡が問いかける。するとノルマンはこれまでとは表情を変え、真剣な口調で話し始めた。
「ふむ。何をしているか、か。その問いに答えられる人間がどれほどおるかのう。職業を聞いているのであれば、ワシは探究者・・・・・・といったところじゃ」
「探究者?」
「そうじゃのう。探しておる・・・・・・答えをな。若人には見つけられぬ答えじゃ。この歳になっても見つけられてはおらん」
その口ぶりからして、何かの研究者だろうか。
「一体それはどんな答えなんですか?」
「ほっほっほ、そう焦るでない。簡単に説明できることではないがの、あえて簡単に言うならばそうじゃのう。ワシの家ってどこだっけ。帰り道がわからんくなって、ウロウロしておったんじゃ」
「いや、迷子じゃないですか。道に迷って帰れなくなって、敷地内に迷い込んだんじゃないですか。大仰な話してるから、めっちゃ興味を持っちゃったじゃないですか」
呆れながらもノルマンに言葉を返す冨岡。一度深いため息をついてから、冨岡は冷静に話を続ける。
「えっと、自分の家を探しているんですよね。その、住所は覚えてますか?」
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