第359話 魔法学教師
ダルクが声をかけたのは、冨岡とヴェルヴェルディの話を一度整理させるため。またローズのためでもあった。
賢い子とはいえ彼女はまだ子ども。大人が子どものために何かを考え、動いていることを知ってしまうと、自分の意思で行なっている全てが大人に誘導されているかもしれない、と感じる恐れがある。
大人にそんなつもりがなくとも、善意の押し付けに感じるような発言を聴かせるべきではなかった。
もちろん、ローズが聡いがゆえにそう考えつく可能性があるという程度の話だ。
先にダルクの意図に気づいたのはヴェルヴェルディ。彼は即座に言葉を足す。
「ええ、そうですね。私たちにできるのは、子どもたちに多くの可能性を提示すること。本来、無限に存在する可能性を、何かしらの理由で狭めることがないようにすることです。その中でも特に、学びの有無が大きいと私は考えます」
ヴェルヴェルディの言葉は、先ほどよりも具体性に欠け、それでいて感情が増していた。
そこで冨岡はローズに無駄な誤解を与えないようにしているのだ、と気づき頷く。
「俺もそう思います。与えるなんて恩着せがましい言い方はしません。でも俺は子どもたちに用意したいんです。未来を変えられるだけの環境を」
「そのためならば毒をも喰らう。そう考えていいですか?」
ヴォロンタ家は既に取り潰された家。今はキュルケース公爵家の庇護下にあり、名前を隠している限り安全だ。しかし、冨岡が雇うとなればその限りではない。
二百年前の大罪は確かに存在するのだ。万が一、何か起きた時冨岡もヴォロンタ家と同じように非難されるだろう。彼はその覚悟はあるのか、と問いかけている。
当然、何も起きない可能性の方が高い。二百年前の話など誰も蒸し返そうとはしないだろう。それも現在では罪にならない罪の話。ヴェルヴェルディが聞きたいのは、冨岡の覚悟だった。
「もちろんです。俺の国にはこんな言葉があります。毒を食らわば皿まで、と」
冨岡がそう答えると、ヴェルヴェルディは柔らかな笑みを浮かべる。
「全身へと毒が回る前に、皿の欠片で大変なことになりそうですね。だが、物事の本質を理解したいい言葉です。先ほどお聞きした学園作り。これはある程度貴族の反感を買うものでしょう。知識の独占は、身分の上下を分けるのに適していますからね。学園はその体制に風穴を開ける針となってしまう。そのような毒を喰らっているのなら、追加の毒どころか皿を食おうと関係ない・・・・・・といったところでしょうか」
そんなつもりはなかった。毒関係で頭の良さそうなことを考えた結果、冨岡の中にある語彙の限界がそれだっただけ。しかし、ヴェルヴェルディは独自で解釈し、何故か納得したのである。
冨岡は『頭良さそう』な雰囲気を出したかっただけだ。幸運にも成功した冨岡は頷く。
「ええ、その通りです」
こうして冨岡は魔法学の研究において、この国で最も進んでいるヴォロンタ家を教師として勧誘することに成功した。
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