第357話 可能性の芽
「その言葉は私にとって心に染みるものがありますね」
冨岡の言葉に対し、ヴェルヴェルディは感慨深いと微笑む。
何かを成し遂げる、と覚悟を持った人間はある程度自分の能力に自信がある。逆に言えば、自分の能力に自信があるからこそ、何かを成し遂げると考え始めるものだ。
そうなれば、他人の意見に耳を貸す者は少ない。事実、歴史上『独りよがりな王』は能力を過信して溺れ、身を滅ぼしてきた。
真に人や歴史、世界を動かせる人間というのは適切に誰かを頼ることができる。冨岡の言葉からその素養を感じたのである。
さらにヴェルヴェルディは言葉を続けた。
「ダルク様がご紹介してくださっている、ということはヴォロンタ家の話は聞いているでしょう。ご存知の通り私はもう、公に家庭教師と名乗ることはできない。けれど、教師であるという矜持だけは持ち続けています。何代にも渡って研究を続けてきた、受け継いできた知識が私の全て。そして教師の本懐は、その知識によって誰かを支えることです。トミオカ様の言葉をお借りするのであれば、絆によって」
そう言ってから、ヴェルヴェルディはローズに視線を送る。
視線に気づいたローズは首を傾げて「どうしたの?」と問いかけて、何かに気づいたように頷いた。
「もう、仕方ないわね。トミーがヴェル先生と話したいって言ってるんだから、特別よ? 私は少し休憩しておくわ」
元々ローズは聡い子だ。ヴェルヴェルディが冨岡との時間を設けたい、と考えているのを理解し、自ら言葉にした。
間髪入れず、ダルクが口を開く。
「それでは私がお茶を淹れましょう。ちょうど、トミオカ様からお茶をいただきましたので。ローズお嬢様好みの焼き菓子も、ここに」
先ほど冨岡が渡した手土産のことである。
話がまとまったところでヴェルヴェルディが、部屋の中心に置かれているソファへと冨岡を誘導した。
「どうぞ、お座りください。ある程度お話は伺っておりますが、歪みなく正しい理解が必要です。ぜひ、トミオカ様の口から直接お聞かせください」
「は、はい。どこから話せばいいのか」
冨岡は説明する。
自分がこの街で何をしようとしているのか。そしてその行動が何につながると考えているのか。
言葉が少し拙くなるのは、冨岡自信最初から全てを計画的に進めたことではないからである。行動しながら積み上げたものを、ゆっくり思い返すように言葉にするのだから多少の拙さは仕方ない。
むしろヴェルヴェルディからすると、冨岡が手段ではなく目的に重きを置いていると感じられ、人物として信頼できる。
全てを聞いたヴェルヴェルディは、まず大きく息を吸い込んだ。
「なるほど。未来を作るため、可能性の芽を育てる、ということですね」
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