第350話 似たもの同士

 そう、二百年間ずっとだ。

 

「じゃ、じゃあ、キュルケース公爵家はずっと国から大罪と認定されたヴォロンタ家を二百年も匿続けていたんですか?」


 アメリアに問いかけられた冨岡は、自身もとんでもない事実を受け入れきれないという表情で頷く。


「そうなりますね」


 人間にとって二百年は決して短くない。どれだけ長寿であろうとも、二百年後に生きていることはないだろう。一人の意思で成し遂げられるものではない。

 この国の未来を見据え、自らのリスクも顧みず、支援を続けた。父から子へ、子から子孫へ意思の火を絶やさぬように。


「なんというか、壮大な話ですね。こんなことを私が言うのは変かもしれませんが、キュルケース公爵家にとって、いえ伯爵家だった頃に利益が望める話ではないように思うんです。リスクの大きさに見合っていないというか」


 アメリアは純粋な疑問を口にする。

 結果的にヴォロンタ家の研究はこの国を安定させた。その成果があってこそキュルケース家の今はある。

 しかし、その当時にそこまで予測できていただろうか。できていたとしても、予測ではなく希望的観測にすぎない。

 それが彼女はどうしても疑問に感じるらしい。

 当然だ。善意で済ませるには大きすぎる出来事である。下手をすればキュルケース家が取り潰されていてもおかしくない。そうならなかったのは幸運だっただけ。

 そんな彼女の疑問に、冨岡は優しく微笑んだ。


「未来への投資なんでしょうね。本来投資は利益を得るために、ギャンブル性を極限まで避けるもの。けれど人は損得など考えずにベットしたくなる時があるんですよ。自分の行動でどんな未来が生まれるのか、気になってしょうがない時。自分たちの人生を賭けてでも、何かに期待したい時。ああ、アメリアさんにはこう言えばわかりやすいでしょうか」

「え?」

「俺たちが学園を作りたいのと同じですよ。目先に利益なんてないですし、何なら保守派の貴族様に目をつけられるかもしれない。子どもたちにとって、学園で生きていくことが幸せなのかどうか、俺たちは大人の尺度でしか測れない。けれど俺たちは信じてるじゃないですか。俺たちの行動が子どもの未来を変え、ゆくゆくはこの国の、この世界の未来を変えてくれるって。そういうことですよ」


 自分の言葉が大仰なのはわかっている。冨岡は何だか気恥ずかしくなって「ははっ」と笑って締め括った。

 するとアメリアも釣られて笑う。


「ふふっ、トミオカさんらしいですね。でも、確かにそうです。トミオカさんと同じように考える人が二百年前にもいたってことですね。そして、それがキュルケース公爵様の先祖。現公爵様がトミオカさんに興味を持ったのは、偶然ではなく必然だったのかもしれません」


 彼女はそう言い終わってから、力強く頷いた。


「すみません、勝手に不安になって。全ての話を聞けば、何の心配もいらないことがわかりました。ぜひダルクさんにヴォロンタ家を紹介してもらいましょう」

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