第349話 最大のリスクと最高の功績

 どれほど大変だったのか、部外者にはわからないほどのことがあっただろう。

 扱いとしては国家への反逆者と同じだ。しかし、それでもヴォロンタ家は研究を辞めることはなかったという。

 汚名を被り、泥を啜り、飢える日々。

 そんなヴォロンタ家を救ったのは、なんとキュルケース家だった。


「キュルケース公爵家が? え、でも」


 冨岡の説明を聞いたアメリアは驚いて、目を見開く。

 彼女が驚くのも無理はない。

 そもそもヴォロンタ家から全てを奪ったのは、この国の王。そしてキュルケース家はその王と血のつながりを持っている公爵だ。

 ヴォロンタ家という国の敵を、公爵という立場で救う。本来あり得ないことだった。

 アメリアはさらに言葉を続ける。


「すみません、私が理解できていないだけなんです。でも、それだとキュルケース家まで大罪を犯したことになりませんか? 国是に背いているわけですから」

「もちろん秘密裏に、ですよ。それもこれは二百年ほど前の話です」


 再び話は二百年前に遡る。

 取り潰されたヴォロンタ家の価値をいち早く見出した貴族がいた。それが今のキュルケース公爵家である。

 その当時、キュルケース家は伯爵位を持つ貴族だった。

 キュルケース伯爵は今後魔法学が国を発展させると考え、禁忌を犯してでも進歩させようというヴォロンタ家の価値に気づき、自らの手元に置くことを決める。

 それは大きなリスクを伴う賭けのような行為であった。

 キュルケース伯爵領にヴォロンタ家を匿い、私財を投じて研究を続けさせ、国の発展に尽力させる。もしもそれが明るみに出れば伯爵の地位を失うほどの行為だ。

 危険な行為だったが、結果的にヴォロンタ家は国の発展に大きく貢献する。まずは国の主要な港に張る結界魔法を完成させ、防御の増強を成功させた。

 さらには植物に対する魔法の影響を研究し、安定した食材の供給に一役買う。

 その二つがなければ、この国の安定はなかっただろうと言われているくらいだ。

 そしてそれらは、全てキュルケース家の成果として認められたらしい。ヴォロンタ家としても名前を出せる状況ではなかったので、キュルケース家の名誉が自分たちの名誉だと考え、さらに尽くした。

 伯爵の功績と名前が国中に広がる中、大きな転機が訪れる。

 ヴォロンタ家に取り潰しという罰を下した王の息子、次期国王が伯爵家の令嬢に恋をしたことだ。

 

「王子から求婚された伯爵令嬢は、その愛を受け入れたそうです。そこにあったのは純粋な愛なのか、政略的なものなのか、当人たちにしかわかりませんがキュルケース家は王との強い繋がりを得た。そして王子と令嬢の間に生まれた子どもが王家を継ぎ、のちにキュルケース公爵家が生まれたです」


 そして何代もキュルケース家はヴォロンタ家を匿い、研究の支援を続けてきたのである。現在に至るまで、ずっと。

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