第346話 国の教えに背くこと

 アメリアの中にある不安。

 それは犯罪に巻き込まれ、自分の居場所を失いかけていたことと深く関係する。

 元々、アメリアが管理していた教会は世界中に信者を持つ宗教団体『白の創世』が運営していたもの。

 当然教会としても機能しており、孤児院の運営や貧民街への物資の配布など慈善活動を行なっていた。アメリアはその孤児院で育ち、そのまま職員として残った一人である。

 彼女の他にも多くの人が関わっていた。受け入れている孤児や職員も多く、教会が無駄に広いのはその頃にいた人数を想像させる。

 しかし、唐突に白の創世は終わりを迎えた。

 冨岡がアメリアから聞いた話では、勇者が白の創世の黒を暴いた、とされているらしい。詳しい話は白の創世の末端に籍を置いていた程度のアメリアには届いて来ず、噂程度でしか知らないという。

 確定している情報だけを抜粋すると、白の創世は世界中に支部を置き、慈善活動にて人の心を掴んで、最終的には世界を自分たちで束ねようとしていた。

 そんな計画の途中、白の創世はとある国で大事件を起こす。表に名前が出ないよう策略を巡らせていたのだが、勇者は全てを見通す目を持っていたらしい。まるで神のように、太陽のように全てを見通すのだとか。

 結果的に白の創世は全ての悪事を暴かれ、団体は解体。世界中から支部が消えることになった。

 だが、悪事に関わったのは幹部レベルの者たちだけ。それぞれの支部で働いているアメリアのような職員は、ただ純粋に白の創世を信じ、慈善活動に勤しんでいた。

 自分たちの信じていた団体が悪事を行なっていたことなど、知るはずもない。

 そして、突然白の創世が解体されたからといって、自分たちの役目を投げ出すことなど出来はしなかった。それが一度でも孤児に関わった自分たちの使命だと考えていたのである。

 結果的に、白の創世から独立し、資金力を失った孤児院が世界各地に誕生した。

 アメリアの教会や隣街にあるリオがいた孤児院も、その内の一つである。

 そんな過去から、アメリアは間接的でも犯罪に関わることを恐れていた。

 冨岡はもちろんアメリアの話を聞いているし、彼女の心情も理解している。その上で、取り潰された家庭教師の話を続けた。


「取り潰されるってことは、その一族の中から大罪を犯した者を出したってことです。けれど、大罪にも様々な種類があります。例えば国家反逆なんかも大罪ですよね。国家転覆を計画することなんかも大罪。他にもこんな大罪があるんです。『国の教えに背くこと』」

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