第345話 取り上げられた権限

 庶民の立場であるアメリアや、庶民という立場すら持っていない冨岡が家庭教師を雇う抜け道。

 普通に考えれば貴族並みに金を払うことだが、それだけでは雇うことができない。

 貴族に教育を施すために知識を代々と受け継いでいる家庭教師。当然ながら彼らは学び教えることに人生をかけている。その知識が貴族に伝わり、国を支えることに矜持を感じていた。

 つまり庶民が家庭教師を雇うことは、身分を超えた無礼に値する。

 そんな状況を知っているからこそ、アメリアは疑問が拭えなかった。


「本当に私たちが家庭教師を雇うなんてことできるんでしょうか。抜け道なんて」


 不安そうな彼女に冨岡は優しく微笑む。


「ダルクさんから聞いた話なので、信憑性は高いと思います。その内容が取り潰された家庭教師一族・・・・・・言葉だけ聞くと物騒な感じはしますが、詳しく聞けば納得の内容ですよ」

「取り潰し・・・・・・つまり家庭教師一族として存在していた家が、なんらかの理由で権限を取り上げられてしまったということですね」


 取り潰しの意味くらいはアメリアにもわかる。本来は貴族に用いられる言葉だ。

 爵位や領地を取り上げられ、貴族としての権利も失うもの。主に大罪への罰として発令されるらしい。貴族としては終わりを意味する。

 貴族と庶民の中間に存在する家庭教師にも適応されるだけでなく、工房や商人にも当てはまる場合があるとダルクは話していた。

 だがしかし、その罰の重さ故に適応されるケースはそう多くない。

 一族の中から国家反逆者を出した、などという場合のみに適応されるものだ。

 簡潔に言えば、取り潰された家庭教師一族は、国家に対して牙を向いた悪しき一族として認識されている。

 冨岡の言う抜け穴とは、その中から家庭教師を雇うという方法だ。


「そうです。すでに家庭教師としての権限を失っている方を教師として雇う」

「でも、それは・・・・・・」

「もちろん、アメリアさんの心配もわかります。国家反逆者を出した一族・・・・・・でも、一族というだけでその人自身が罪を犯したわけではない。取り潰しというこの国の罰則制度に不満を持つわけではないですけど、罪人以外は罪人ではないんです。当たり前ですけどね」


 そもそも取り潰しという制度は、罪を未然に防ぐためにある。自分の命だけではなく、祖先の誇りを踏み躙り、子孫の未来を奪うという重さで足を止め、罪を犯させないものだ。

 しかし、学園は子どもの未来を預かる場所。その点でアメリアは不安を抱えていた。


「トミオカさんの言っていることはわかります。けれど、もしかすると・・・・・・一度この教会は大きな犯罪に巻き込まれ潰れています。そう考えると・・・・・・」

「当然、俺も子どもたちへの影響は考えました。だけど、ダルクさんが紹介してくれた人なら大丈夫だろう、と思えたんです。少し話だけ聞いてもらっていいですか?」

「はい」

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