第347話 国是と神
その時代、その国にとって何が罪になるのかは大きく異なる。
様々な国で歴史上罪とされてきたものの中には、『国是に逆らう』というものがあった。国是とは国全体が正しいと認める政治上の方針。国の教えというのは国是たり得るだろう。
例え『それ』が真実であり事実だとしても、国の教えに背いたものであれば、国是に逆らうという罪に該当してしまう。
それ、とは人間の文明を進めるために研究を積み上げた学者の意見。
研究の結果、新たな真実を発見したとしよう。もしもその真実が国の教えに逆らうものであれば、黙っておくのが最適解だ。
しかし、人類の知は停滞してしまうだろう。真実から目を背け続けるのだから、必然である。
そんな停滞を許せなかった学者がおり、その学者は『国の教えに背いた』として罰せられた。
冨岡はそこまで説明してから、一呼吸おいて言葉を続ける。
「・・・・・・これが取り潰された家庭教師の一族の話です。ダルクさんが言うには二百年ほど前の話だそうですけど」
現在の王がそうしたわけではない、というのはダルクにとって重要なところらしい。王との血縁関係が存在するキュルケース公爵家に使えているのだから、気遣うのは当然だ。
黙って話を聞いていたアメリアは、おずおずと尋ねる。
「その一族が背いたという国の教えって、どういうものなんですか?」
子どもたちを教える教師候補の話だ。慎重になるのは、彼女の責任感故なのだろう。
問いかけられた冨岡は、ダルクから聞いた話を思い出した。話の内容的に冨岡からすれば『そうなんだ』という感想しか持てなかったし、最終的にそういうものとして理解しただけである。
けれど、自分も知っていたという口調で答えた。
「現在では当然になっている話なんですし、唖然としちゃうかもしれないんですけど、『魔法は理解によって増幅する』という事実の発表です」
「え?」
驚きながら停止したアメリア。そこで冨岡は間髪入れずに言葉を付け足す。
「今の魔法学では当然なのですが、魔法を発動する時は何が起きてどうなるのかを理解し、強くイメージすることが大切」
冨岡は言葉の最後に心の中で『なんですよね?』を付属しておいた。魔法なんて使えないのだから、曖昧なのは仕方がない。
さらに説明は続く。
「しかし、二百年ほど前までこの国ではこう考えられていました。『魔法は神が与えた力』であると。つまり、魔法は神の祝福という認識であり、人間が神の領域を犯すようなことをすべきではない。人間が神の領域を左右できるという考え自体が、神への冒涜である、と。その頃の魔法学といえば、神の祝福を顕現する方法を学ぶのが一般的だったそうですからね」
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