第342話 学園へ向けた準備を

 翌日からも教会から学園に改装する工事は続き、冨岡たちもいつも通りの仕事をこなす。

 移動販売『ピース』は午前中、冨岡が調理を担当し営業。二号店は新人教育も兼ねて大広場とは別の場所で、レボルが監督をして営業を始めた。

 これによって売り上げは純粋に倍になる。

 利益が上がり始めると、従業員を雇うのも比較的容易になっていくものだ。

 二号店で働いているレボルの弟子が調理を覚えれば、二手に分けてアメリアたちの仕事を補うことができるだろう。

 そのためには調理以外の従業員を雇わなければならない。

 学園が始動する前に、子どもたちやアメリアが仕事に入らなくてもいい体制を作るのは絶対だ。商人としての仕事は、学園の運営を目的としている。仕事のせいで学園の方に身が入らなくなるのは本末転倒でしかない。

 それならばいっそ、冨岡が百億円を全て何かに換えて異世界に持ち込んだ方がいい。そうしないのは、徐々に減っていく資金の心配をしなくてもいいように、である。

 また、異世界の文明や今の市場を大きく破壊しないためでもあった。

 移動販売『ピース』の営業が終わり、貧民街での配給をレボルたち二号店に任せたところで、冨岡は教会の敷地内に停めた屋台の中でアメリアに相談を持ちかける。


「ってことで、そろそろ調理担当じゃない従業員を雇おうと思ってるんです」


 冨岡の言葉を聞いたアメリアは、納得したように頷いた。


「そうですね。学園の完成が見えてきましたから、そろそろかとは思っていました」


 彼女がこれほど即座に頷くのには理由がある。

 既に学園始動までの計画は共有してあった。その結果アメリアも冨岡と同じタイミングで、新しい従業員が必要だと感じていたらしい。

 

「ひとまず移動販売『ピース』に必要な従業員は二人です。一号店、二号店の販売担当が一人ずつ」


 冨岡が言うとアメリアは、少し考えてから首を傾げる。


「ひとまずということは、他にも増やす予定なんですか?」

「ええ、何か起きた時のために護衛役は必要だと思うんですよ。レボルさんは冒険者でもあったので、対応できると思うのですがもう一方の店舗にも護衛を置きたいですね。やっぱり従業員を守るのは経営者の務めですし」

「なるほど。それなら安心して勤めることができますもんね」


 誰かを犠牲にするような商売はしたくない。元々、三方よしを心に掲げて始めたものだ。自分との約束を破るわけにはいかない。

 そのための人件費は無駄どころか、従業員の安心につながり、仕事のクオリティに直結するだろう。冨岡はそう考えていた。

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