第322話 帰宅するサーニャ

 これからリオが安全に安心して暮らせるだろうことを確認したサーニャは、酒を飲み干してから立ち上がる。


「それじゃあ、そろそろお暇しようかね」


 元々、その日のうちに帰る予定だったサーニャ。だが、こんな時間までいたのは想定外である。

 冨岡が外を覗くと、女性一人で歩かせるわけにはいかない程度には暗い。


「今からですか? もうすっかり夜ですよ」


 そう冨岡が言葉にすると、サーニャは揶揄うような笑みを浮かべた。


「あれぇ、心配してくれるの? あらら、これは愛されちゃってますねぇ」


 アメリアに見せつけるよう、わざとらしく言う。

 しかし、冨岡はそんなサーニャの真意など考えず、真剣な表情で頷いた。


「そんなの心配に決まってるじゃないですか。何かあってからでは遅いんですよ。女性がこんな遅くに一人で街から街へ歩くなんて」

「ちょ、ちょっと、そんな本気で心配されたら照れるじゃないか」


 冗談で言ってみたことを真剣に考えられ、頬を赤くするサーニャ。どちらかというと強そうに見える彼女にとって、心配されることは珍しく、新鮮だったらしい。

 柄にも無く恥ずかしそうに手で自分の顔を仰いでいた。

 そんな彼女に冨岡は言葉を畳み掛ける。


「サーニャさんは誰が見てもお綺麗なんですから、しっかり自衛してください」

「き、綺麗って、そりゃね、私はね、綺麗だけども」

「はい、綺麗です。だから、今日は」

「今日は?」

「冒険者ギルドで護衛を雇いましょう」


 それまで照れていたサーニャの顔が一気に冷静さを取り戻した。

 確かに冨岡よりも冒険者の方が安全だろう。それでも冨岡が守る、と言うのを期待していた。そんな自分を馬鹿らしく思う。


「・・・・・・はぁ」


 サーニャは溜め息をついてから、アメリアに視線を送った。


「こりゃあ、アメリアも苦労するね。意志の強い天然なんて、困ったもんだよ」


 冨岡もアメリアもサーニャの言葉の意味がわからず首を傾げる。その中でレボルだけが笑いそうなのを我慢していた。

 呆れ顔のサーニャに対し、アメリアが「今日は泊まっていかない」と誘ったのだが、仕事が残っていると帰る姿勢を崩さない。

 それでも心配なことには変わりない、と冨岡がレボルに相談を持ちかけた。


「すみません、レボルさん。仕事終わりで疲れているでしょうけど、俺の依頼を受けてくれませんか?」

「ははっ、依頼されなくてもそのつもりですよ。サーニャさんを隣街まで送っていけばいいんですね。今日は美味しいお酒もいただきましたし、依頼料は先払いでもらったということで」


 すかさずレボルは自分の荷物を用意する。料理人兼冒険者であるレボルの有能さに感謝すると共に、彼のスマートさを羨ましく思う冨岡。

 これでサーニャの帰り道は安全だろうか。いや、今のレボルは武器を持っていない。ファンタジー異世界にありがちな、武器を持った盗賊が出てきたらどうなるだろう。

 何か武器を持っていないと心許ないのではないか。

 そう考えた冨岡はレボルにスタンガンを手渡す。軽く使い方を説明すると、レボルは即座に理解して携帯した。

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