第320話 終焉の子
そこから先は子どもたちに聞かせるべきではない、と判断したのだろう。
だが、容易に想像できた。
魔王の弱点となったその女性の命を奪ったのだろう。それも残酷な方法で。
そうでもなければ、正義感のために職を失った魔王が人々の脅威になるような行動には出ない。
その後もサーニャは魔王が起こした行動の題名を羅列する。
洗脳魔術の開発及び実験。魔力増幅装置に開発。盗賊への魔法貸与。
その先を想像すれば身震いしてしまうほどの題名ばかりだったが、唯一冨岡が聞き返したものがある。
「じ、人体実験ですか?」
正確には『魔力による人体改造』だ。
人体に外側から特異な魔力を流し、人ならざる力を与える、という実験である。
その結果、肌は赤紫に、爪は闇夜のように黒く染まる。当然、それだけではない。
改造された人間は身体能力が何倍にも向上し、あらゆる魔法を意のままに操ることができるようになる。
それだけの改造だ。もちろんデメリットも存在する。
改造を施されてから数年で命を落とす、というものだ。誰がどう考えても非人道的な実験である。
「そうして魔王は最強の軍隊を作ろうとしたのさ。なんたって洗脳魔術を開発しているからね。人を集めるのは簡単だったはずだよ。まるで自分の国を作り世界中に争いを仕掛けようとしている。そんな様を『魔王』と呼んだのさ」
サーニャは話をそう締め括った。
冨岡は、なるほど魔王と呼ぶに相応しい、と頷く。魔王に同情しないでもなかったが、人々に与えた影響は大きいようだ。
「そんな魔王が六年前に死んだ、って話でしたよね」
冨岡が問いかけると、サーニャは本題を思い出したかのように返事をする。
「ああ、そうだね」
元々、リオについての話だった。ここまでのは六年前に遡ったところで、その日が『魔王の終焉』であることから派生した話である。
サーニャは落ち着いた様子で話を続けた。
「その日、魔王は自らの怒りと魔法に飲まれ命を落としたの」
それについても深く聞きたくなった冨岡だが、話が進まなくなるので黙って聞く。
「魔王の怒りは空へと伝播し、荒れ狂った空から雷が響き、嵐が落ちてきたのよ。そんな日にこの子は私がいる教会の前に置かれていた。その頃はまだ、私はいなかったけどね」
リオの話なはずなのに、冨岡は何故かフィーネの過去を思い出した。
状況は違うが、教会に拾われた話はどこか似ているように感じる。
そんな小さな類似で話を断ち切るわけにもいかず、黙ったままサーニャの話に耳を傾けた。
「だからなのかな。この子は『終焉の子』なんて呼ばれ方をしててね。子どもたちの中では酷い扱いを受けていたみたいなの。いや、大人たちも見て見ぬふりをして、助けなかった。そんなの同罪よね」
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